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バル  作者: 隣の猫
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216/404

アルミナ



黒い霧が揺らぐ。


虚無の使徒が消える。


次の瞬間。


左右から同時に斬撃が迫った。


ベスは迷わない。


右手の剣を振るわない。


半歩だけ身体を沈める。


黒い刃が髪を掠めた。


その間を縫うように、フェンリルが横薙ぎに振るわれる。


轟ッ!!


黒い霧が大きく散った。


しかし。


斬った感触はない。


もう姿は消えていた。




真上。


黒い影が落ちてくる。


ベスは視線を向けない。


床へ剣を突き立てる。


その反動だけで身体を横へ流した。


直後。


轟音。


黒い剣が床へ突き刺さる。


石畳が砕け、


放射状に亀裂が走る。


神殿が大きく震えた。




距離が開く。


互いに構える。


静寂。


響くのは崩れ続ける神殿の音だけ。


天井の石が落ちる。


柱が軋む。


砂煙がゆっくりと漂う。


その中で。


二人だけが止まっていた。




先に動いたのは虚無の使徒だった。


黒い霧をまとった剣が、無数の軌跡を描く。


速い。


人間なら。


見えない。


だが。


ベスは剣を見ていなかった。


肩。


腰。


重心。


わずかな癖。


砂漠最後の夜。


何百回と木剣で叩き込まれた記憶が、身体を先に動かしていた。


剣が来る。


ではない。


来る前に動く。


フェンリルが黒い剣を逸らす。


その流れへ右手の剣が重なる。


火花。


衝撃。


そして、すれ違う。




虚無の使徒は初めて半歩下がった。


ベスは追わない。


静かに構え直す。


呼吸は乱れている。


肩も重い。


それでも視線だけは揺るがない。




再び激突。


今度は真正面。


剣と剣がぶつかる。


フェンリルが押し込む。


虚無の使徒も黒い霧を噴き上げながら押し返す。


互いの力が拮抗した瞬間。


床が耐え切れず、大きく沈んだ。


石畳が崩れ落ちる。


二人は同時に跳ぶ。


空中。


剣が交わる。


フェンリルが黒い剣を弾く。


衝撃だけで天井の一部が崩壊した。


巨大な石塊が降り注ぐ。


だが。


二人はそれすら足場にして跳び続ける。


人ではない。


神でもない。


ただ純粋に、


力だけを極めた二つの存在が、















崩れゆく神殿の中で激突を繰り返していた。

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