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バル  作者: 隣の猫
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214/400

アルヴィ



黒い仮面へ亀裂が走る。


その瞬間。


虚無の使徒の身体から溢れていた黒い霧が、大きく揺らいだ。


「……。」


初めて。


その均衡が崩れる。


ガルドは見逃さなかった。


「押し切るぞ!」


短い号令。


それだけで十分だった。




「おおぉぉぉっ!」


レオンが真っ先に飛び出す。


大剣が真正面から振り下ろされる。


虚無の使徒は受ける。


だが、その一撃は決めるためではない。


押し込むためだった。


ギィィィッ!!


金属が軋む。


虚無の使徒は一歩後ろへ下がる。


「まだだ!」


レオンはさらに踏み込む。


大剣の重さが、そのまま相手を追い詰めていく。




「右!」


アイラが叫ぶ。


レオンは迷わない。


身体を半歩だけ左へ流す。


その横を矢が駆け抜ける。


ヒュンッ!!


虚無の使徒は避ける。


その先。


そこへ行くことすら、


もう読まれていた。




「そこです!」


リシアが飛び込む。


細身の剣が虚無の使徒の剣へ絡み付く。


受け流す。


逸らす。


ほんの一瞬だけ。


黒い剣の向きが変わる。


「団長!」


「分かっている!」


ガルドは一直線に踏み込んだ。


鋭い剣閃。


虚無の使徒は受け止める。


しかし。




「まだ終わりじゃねぇ!」


レオンの大剣が横から叩き込まれる。


衝撃。


虚無の使徒は大きく体勢を崩した。


「今!」


アイラの矢が放たれる。


一本。


二本。


三本。


矢は身体ではなく、


逃げ道を消していく。


虚無の使徒は避ける。


だが。


そこにはもう、


リシアが待っていた。


「逃がしません!」


細身の剣が黒い外套を深く裂く。


初めて。


虚無の使徒の身体が大きく揺らぐ。




ガルドは静かに息を吸う。


四人の姿が見えた。


レオンは前を押さえ。


アイラは道を閉ざし。


リシアは隙を消す。


もう守るだけではない。


全員が、


互いを生かして戦っていた。


ガルドは小さく頷く。


「十分だ。」




四人は自然と動いた。


誰も叫ばない。


誰も指示を待たない。


レオンが押し込む。


虚無の使徒は動く。


アイラが導く。


さらに動く。


リシアが逃げ道を塞ぐ。


そして。


最後の一歩だけ。


ガルドが踏み込んだ。


キィィィィィン!!


渾身の一撃。


その剣へ。


レオンの大剣。


アイラの矢。


リシアの剣。


四つの力が、


一つへ重なる。


黒い剣が砕けた。


仮面が大きく割れる。


虚無の使徒の身体を覆っていた黒い霧が、一気に弾け飛んだ。


静寂。


やがて。


虚無の使徒はゆっくりと崩れ落ちる。


その姿は黒い霧となり、


音もなく消えていった。




誰もすぐには動かなかった。


荒い息だけが神殿へ響く。


レオンが肩で息をしながら笑う。


「……やったな。」


アイラも静かに息を吐く。


「みんなで、勝ちました。」


リシアは剣を下ろし、小さく微笑んだ。


「はい。」


ガルドは三人を見渡す。


そして静かに言う。


「強くなったな。」


短い一言。


それだけだった。


だが。


その言葉は、


三人にとって何より重い褒め言葉だった。


しかし――。






















神殿はなお、大きく震えていた。

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