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バル  作者: 隣の猫
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ミンタカ



朝霧に包まれた港町。


潮の香りが風に乗り、帆船の帆がゆっくりと揺れていた。


ベスは生まれて初めて見る海に、思わず足を止める。


「……大きい。」


村を囲む山しか知らなかった少年の瞳に、どこまでも続く青が映る。


ボルグが豪快に笑った。


「ははっ! その顔、俺も初めて海を見た時と同じだ!」


「落ちるなよ?」


「まだ乗ってもいないだろ。」


ベスが苦笑すると、周囲から笑いが起こった。


その笑顔を見て、ガルドは静かに頷く。


旅は、人を変える。


ベスはもう、一人で怒りだけを抱えていた少年ではなかった。




港には各地から集まった傭兵や騎士たちがあふれていた。


鎧の紋章。


使う武器。



全てが違う。


四つの大陸。


それぞれの文化が、この港へ集まっている。


「すごい人数だ……。」


ベスが辺りを見回していると、


背後から大きな声が響いた。


「団長!」


振り返る。


そこに立っていたのは、一人の青年だった。


黒髪。


鋭い目つき。


肩へ担いでいるのは、巨大な大剣。


細身の剣士とは違う。


その姿だけで分かる。


この男は、戦士だ。


「戻りました。」


青年はガルドへ頭を下げる。


ガルドは静かに頷いた。


「遅かったな。」


「任務が長引きました。」


「怪我は。」


青年は少しだけ笑う。


「問題ありません。」


ガルドは目を細める。


「……嘘だな。」


「相変わらずですね、団長。」


そのやり取りを見て、ベスは少し驚いた。


厳しいガルドが、


この青年には少しだけ表情を緩めている。




青年はベスを見る。


「こいつが?」


ガルドが頷く。


「ああ。」


「ベスだ。」


青年は少しだけ目を細めた。


「グランベアを倒した新人か。」


ベスは首を横に振る。


「俺一人じゃない。」


「みんなで倒した。」


青年は一瞬黙った。


そして。


小さく笑う。


「……なるほど。」


「噂とは違うな。」


ベスは首を傾げる。


「何が?」


青年は大剣へ手を置く。


「普通なら自分の手柄にする。」


「でも、お前は仲間を先に出した。」


「嫌いじゃない。」




ガルドが口を開く。


「紹介する。」


「レオン。」


青年は軽く手を上げた。


「灰鷹のレオンだ。」


「よろしく。」


ベスも頷く。


「ああ。」


「よろしく。」


短いやり取り。


だが。


不思議と分かった。


この男は強い。


そして。


自分と同じように、


仲間を信じて戦う人間なのだと。




その時。


港中へ鐘の音が響いた。


「出航だ!」


船員たちが叫ぶ。


レオンは船へ向かって歩き出す。


途中で一度だけ振り返った。


「中央島で腕を見せてもらう。」


「次は、剣で話そう。」


ベスは笑う。


「ああ。」


レオンは人混みへ消えていった。




巨大な帆船がゆっくりと港を離れる。


歓声。


汽笛。


白い波しぶき。


ベスは船首へ立ち、遠ざかる故郷を見つめていた。


「もう戻れない。」


そんな気がした。


村を出た時とは違う。


今度は、自分の意思で世界へ踏み出す。


その旅だった。




日が暮れる頃。


船は水平線の向こうへ進んでいた。


夕焼けに染まる海。


空を舞う白い鳥。


穏やかな時間。


そのはずだった。


突然――。


ドォォン!!


船体が大きく揺れる。


悲鳴が上がる。


「な、何だ!」


船員が海を指さす。


「海だ!」


「海の中に何かいる!」


黒い影が、水面下を高速で泳いでいる。


一つではない。


二つ。


三つ。


やがて巨大な背びれが海面を切り裂いた。


「海魔だ!」


港から同行していた老船員が顔色を変える。


「こんな沖まで現れるなんて……!」


乗客たちは慌てて武器を抜く。


ガルドは静かに剣を構えた。


「ベス。」


「これが世界だ。」


海にも魔物がいる。


空にも。


山にも。


世界中に、人々を脅かす存在がいる。


ベスは剣を抜いた。


右手に剣。


左腕には獣爪。


もう村のためだけではない。


この船には何百人もの命がある。


守るべきものが、また一つ増えた。


水平線の彼方から、一頭の巨大な海魔が跳び上がる。


























月明かりを浴び、その牙が鈍く輝いた。

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