シルファ
神殿が大きく震えた。
天井から石片が降り注ぎ、
床へ刻まれた亀裂はさらに広がっていく。
それでも戦いは止まらない。
キィィィン!!
ガルドと虚無の使徒の剣が激しくぶつかる。
重い一撃。
受け止めたガルドの足が半歩滑る。
その横をレオンが駆け抜けた。
「今度こそ!」
大剣を振り抜く。
全力だった。
だが。
虚無の使徒は身体を半身ずらしただけで、その一撃を避ける。
空を切った大剣は石床へ叩きつけられ、大きな音を響かせた。
「くそっ!」
レオンは歯を食いしばる。
「焦るな。」
短い声。
ガルドだった。
レオンは振り向かない。
「分かってる!」
そう返しながらも、心は乱れていた。
どうして当たらない。
力では負けていない。
速さでも負けているとは思えない。
それなのに。
届かない。
再び踏み込む。
横薙ぎ。
袈裟斬り。
突き。
考えられる限りの攻撃を繰り出す。
だが虚無の使徒は、そのすべてを紙一重で避けていく。
まるで。
振る前から知っているように。
「……。」
レオンは一度距離を取った。
肩で息をする。
その時。
旅の途中。
ガルドへ初めて稽古を付けてもらった日の言葉が頭をよぎる。
『剣は力で振るものじゃない。』
『相手を動かすものだ。』
「動かす……。」
思わず呟く。
今までの自分は。
倒そう。
斬ろう。
それしか考えていなかった。
虚無の使徒が再び踏み込んでくる。
レオンは剣を構えた。
だが今度は違う。
真っ直ぐ斬らない。
わずかに角度を変える。
狙ったのは身体ではない。
進む先。
虚無の使徒は一瞬だけ足を止めた。
「……。」
ほんの僅か。
それだけだった。
しかし。
初めて相手の動きを止めることができた。
その一瞬を見逃さなかったのはガルドだった。
剣が閃く。
虚無の使徒は受け止める。
すぐに後ろへ飛び退いた。
距離は離された。
だが。
ガルドの口元がわずかに緩む。
「そうだ。」
「それでいい。」
レオンは目を見開く。
今の一撃は届いていない。
それでも。
初めて。
人外の動きを、自分の剣で変えることができた。
その小さな変化は、
レオンの大きな一歩だった。




