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バル  作者: 隣の猫
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ヴィレイア



激しい剣戟が神殿へ響き渡る。


金属がぶつかり合う甲高い音が何度も反響し、石造りの広間全体を震わせていた。床を踏み抜くたびに鈍い衝撃が足裏へ伝わり、柱に走った亀裂からは細かな砂粒がぱらぱらと落ちてくる。


ガルドたち四人はなお虚無の使徒に翻弄されていた。


剣を振るえば、そこにはもういない。


踏み込めば、黒い影のようにすり抜ける。


空を裂く刃の風だけが頬を掠め、遅れて冷たい汗が背を伝った。


連携は崩れていない。


それでも届かない。


人外という壁は、あまりにも高かった。


その間にも、灰鷹の団員たちは神殿の外縁や通路で魔物の群れを必死に食い止め続けている。


獣じみた唸り声、爪が石床を削る耳障りな音、肉を裂く鈍い音が絶え間なく重なり、戦場の空気は血と埃で重く濁っていた。




「ノア!」


「こっち!」


「うん!」


ノアは駆け出した。


傷付いた団員のもとへ膝をつき、両手を添える。


淡い光がゆっくりと傷口を包み、荒かった呼吸が少しずつ落ち着いていく。


「ありがと。」


団員は笑顔で立ち上がる。


「まだいける。」


「無理しないでね。」


「任せろ。」


剣を握り直し、再び前線へ駆け戻っていく。


ノアはその背中を見送り、小さく息を吐いた。


「……よかった。」


しかし次の瞬間には顔を上げる。


「次の人!」




その時だった。


灰猫の耳がぴくりと動く。


「ノア。」


「右じゃ。」


「え?」


「かがめ!」


「は、はい!」


ノアは反射的にしゃがみ込む。


次の瞬間、黒い魔物が頭上を飛び越えた。


長い爪が髪をかすめ、背後の石床へ深い爪痕を刻む。


「危ねえ!」


一人の団員が飛び込み、魔物を剣で斬り伏せた。


魔物は断末魔を上げ、その場へ崩れ落ちる。




「大丈夫か、ノア!」


団員が駆け寄る。


「う、うん!」


ノアは何度も頷いた。


「ごめんね……。」


団員は笑う。


「謝るな。」


「無事ならそれでいい。」


もう一人の団員も笑顔で続けた。


「ノアは後ろにいてくれ。」


「治せるの、ノアだけだろ。」


ノアは唇を結ぶ。


「でも……。」


「みんな怪我してる。」


「私も戦えたら……。」




「こら。」


灰猫が小さく鼻を鳴らす。


「おぬしまで倒れたら、誰が皆を治す。」


「皆がおぬしを守る理由を忘れるでない。」


ノアは少しだけ俯き、それから静かに頷いた。


「……うん。」


「私、みんなを治す。」


灰猫は満足そうに尻尾を揺らした。


「それでよい。」




その様子を見ていた団員たちが苦笑する。


「猫殿には敵わねえな。」


「ははは。」


小さな笑いが広がる。


張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ和らいだ。


ノアも思わず笑顔になる。


「えへへ。」


しかし、その笑顔も長くは続かない。




キィィィン!!


神殿の奥から激しい衝突音が響いた。


耳をつんざくような金属音が何度も跳ね返り、床が大きく震える。


柱へ新たな亀裂が走り、石の表面がぱきりと剥がれ落ちる。


天井からは細かな石片が降り注ぎ、神殿そのものが悲鳴を上げ始めていた。


ノアは奥を見つめる。


ガルドたちは、なお命を懸けて戦い続けている。


ノアは胸の前で小さく拳を握った。


(みんな。)


(絶対に帰ろう。)


そう心の中で強く願い、もう一度顔を上げる。


「次の人!」





















ノアは再び、仲間たちのもとへ駆け出した。

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