アルゼア
「殺せ。」
虚無の使徒が静かに命じた、その瞬間だった。
ギャアアアアア!!
無数の魔物が一斉に灰鷹へ襲い掛かる。
その咆哮が神殿中へ響き渡った。
「来やがれ!!」
レオンが真っ先に飛び出す。
巨大な大剣が大きく唸り、先頭の魔物をまとめて吹き飛ばした。
轟音と共に黒い身体が宙を舞う。
だが、その隙間を埋めるように次々と魔物が押し寄せてくる。
「数が多い!」
アイラが矢を放つ。
一本。
二本。
三本。
放たれた矢は寸分違わず魔物の急所を射抜き、次々と床へ倒していく。
それでも群れは止まらない。
「右から来ます!」
リシアが叫ぶ。
魔物が灰鷹団員の死角へ回り込む。
細身の剣が鋭く閃く。
魔物の爪が届くより早く、その首が宙を舞った。
「ノア!」
「お願い!」
「うん!」
ノアはすぐに駆け寄る。
肩を裂かれた団員へ小さく両手をかざす。
淡い光が傷を包み込んだ。
深い傷は治せない。
それでも流れていた血は止まり、顔色が少しだけ戻る。
「ありがとう。」
団員は再び剣を握り、戦列へ戻っていく。
ノアは息を整える暇もなく、次の負傷者のもとへ走った。
リシアは小さく微笑む。
「その調子。」
「無理はしないでね。」
「うん!」
ガルドは先頭で剣を振るう。
最小限の動き。
無駄のない一撃。
近付く魔物を確実に斬り伏せながら、一歩ずつ前へ進んでいく。
「止まるな。」
短い一言。
それだけで灰鷹は前進を続けた。
ベスも魔物の群れへ飛び込む。
右手の剣が唸る。
一体。
二体。
魔物たちは次々と倒れていった。
その戦いを、
二人の虚無の使徒は静かに見つめていた。
一歩も動かない。
まるで灰鷹の力を測っているかのようだった。
レオンが顔をしかめる。
「何だあいつら。」
「戦う気がねぇのか?」
ガルドは視線を外さない。
「違う。」
「見られている。」
その言葉に、ベスも虚無の使徒を見る。
二人はベスだけを見つめていた。
何かを待つように。
戦いは激しさを増していく。
剣戟。
咆哮。
矢が風を裂く音。
回復魔法の淡い光。
そのすべてが神殿へ響き渡った。
レオンが巨大な魔物を叩き伏せる。
同時に、床が大きく震えた。
一本の黒い柱へ、小さな亀裂が走る。
まだ誰も、その異変には気付いていなかった。




