ミラディル
黄金の羽は静かに前を指していた。
灰鷹は歩みを止めない。
頭上では強い陽射しが砂漠を照りつける。
乾いた風が吹き抜け、
砂を踏み締める音だけが静かな世界へ響いていた。
見渡す限り砂。
果ての見えない砂丘。
揺らめく陽炎。
照り返しが容赦なく体力を奪っていく。
それでも黄金の羽は迷うことなく進み続ける。
ベスは羽から目を離さない。
レオンは黙って大剣を担ぎ、
アイラは周囲を警戒しながら歩く。
リシアはノアの歩幅へ合わせ、静かに隣を歩いていた。
先頭ではガルドが一定の歩調を崩さない。
その頭の上では灰猫が丸くなったまま眠っている。
どれほど歩いただろうか。
ベスは足元へ違和感を覚えた。
サクッ……
砂ではない。
しゃがみ込み、地面へ触れる。
黒い石。
砂の下から岩肌が顔を覗かせていた。
「……変わってきた。」
ガルドは一度だけ足元を見る。
「進むぞ。」
灰鷹は再び歩き始めた。
歩みを重ねるたび、
砂は少しずつ姿を消していく。
黒い岩が増え、
やがて砂丘は完全になくなった。
目の前へ広がるのは、
どこまでも続く黒い大地。
黒い岩。
黒い土。
生命の色はどこにもない。
乾いた風だけが低く唸りながら吹き抜けていた。
その時だった。
「……ふぅ。」
小さな声。
全員が足を止める。
レオンが目を丸くした。
「おっ。」
「猫が喋った。」
灰猫はガルドの頭の上でゆっくりと目を開ける。
「やれやれ。」
「ようやく静かになったわい。」
ノアは嬉しそうに笑う。
「猫さん!」
「また喋れるようになったんだね!」
灰猫は小さく頷く。
「ここはもう鷹の守護地ではないからの。」
「向こうでは、わしの言葉は届かなんだ。」
アイラが静かに口を開く。
「守護獣には、それぞれの領域があるということですか。」
「そういうことじゃ。」
灰猫は欠伸を一つ。
「鷹の領域では鷹が主。」
「猫は静かにしておるしかなかったわい。」
レオンは苦笑する。
「だから急に無口だったのか。」
「うむ。」
「少々退屈ではあったがの。」
そう言うと灰猫は再び丸くなる。
ガルドが苦笑交じりに呟いた。
「いつもの調子だ。」
張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ和らいだ。
太陽はゆっくりと西へ傾いていく。
黒い大地は赤く染まり、
長い影がどこまでも伸びていった。
やがて最後の陽が地平線へ沈み、
世界は静かに夜へ包まれる。
月だけが黒い大地を淡く照らしていた。
黄金の羽は、その光を受けて静かに輝く。
その時。
ノアが足を止めた。
「あっ……。」
全員が顔を上げる。
遥か彼方。
夜空を突き刺すように、一つの巨大な黒い影が立っていた。
漆黒の岩だけでできた巨大な山。
月明かりを受けてもなお黒く、
その頂は夜空へ溶け込み、どこまで続いているのか分からない。
ベスは静かに息を呑む。
黄金の羽は迷うことなく、その黒き山を指していた。
灰鷹は歩みを止めることなく、
静かに黒き山へ向かって歩き続けた。




