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バル  作者: 隣の猫
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フェイラ



夜。


昼の熱はすっかり引き、乾いた風が静かにオアシスを吹き抜けていた。


焚き火の周りでは、レオンたちが穏やかな時間を過ごしている。


その灯りから少し離れた砂地。


ベスとガルドは向かい合って立っていた。


岩の上には灰猫が丸く座り、眠そうに尻尾を揺らしている。


「にゃ。」


気のない一声だけだった。




ガルドは木剣を肩へ担ぐ。


「まずは剣士としてだ。」


ベスは黙って頷く。


「フェンリルに頼る前に。」


「剣士として俺を越えられるか見せてみろ。」


その言葉に、ベスは剣を抜いた。


左腕へ向けかけた意識を静かに切り替える。


「お願いします。」


「来い。」




砂を蹴る。


一瞬で間合いを詰める。


キィンッ!!


木剣同士が激しくぶつかった。


ベスは止まらない。


一合。


十合。


百合。


そのまま身体を捻り、横へ流れる。


さらに踏み込む。


ガルドは静かに受け続けた。


最小限の動きだけで、すべてを受け流していく。




ベスは視線を止めない。


相手の足。


肩。


呼吸。


わずかな重心の移動。


そのすべてを見ながら剣筋を変える。


一年前なら考えられない剣だった。


焦りはない。


力任せでもない。


その場その場で最善を選び続ける。


旅の中で積み重ねてきた経験が、自然と身体を動かしていた。




ガルドは受けながら、小さく笑う。


「いい。」


その一言だけ。


ベスはさらに攻め込む。


フェイント。


切り返し。


足払い。


剣だけで勝負を決めようとする。


夜空へ何度も乾いた音が響いた。




互いに息が上がり始めた頃。


ベスが最後の踏み込みを見せる。


その瞬間。


コツン。


額へ木剣が軽く触れた。


勝負あり。


ベスは苦笑する。


「……まだですね。」


「当然だ。」


ガルドは木剣を下ろす。


「だが。」


少しだけ間を置く。


「剣士としては合格だ。」


その言葉に、ベスは思わず顔を上げた。


ガルドが正面から認めることは滅多にない。


だからこそ重かった。


「ありがとうございます。」


ガルドは静かに頷く。


「旅は無駄じゃなかった。」


「今のお前なら、人間相手に遅れは取らん。」


ベスの胸へ、その言葉が静かに染み込んでいく。




だが。


ガルドの表情が変わった。


「……だが。」


夜風が止む。


「お前の敵は剣士だけじゃない。」


「人外の存在だ。」


その瞬間だった。


ガルドの足元から、黒い霧が静かに滲み始める。


ゆっくりと。


しかし確実に。


夜の砂漠を灰色が覆っていく。


ベスの表情が引き締まる。


「団長……。」


黒い霧はガルドの身体へ絡み付き、その瞳がゆっくりと色を変えていく。


灰色の亡霊




岩の上の灰猫が、面倒くさそうに片目を開ける。


「にゃ。」


小さく鳴く。


次の瞬間。


二人を中心として、透明な膜のような結界が静かに広がった。


風は吹いている。


だが砂は一粒も舞わない。


黒い霧も、その外へ漏れ出すことはなかった。


灰猫は欠伸を一つすると、そのまま再び丸くなる。


まるで、


「また面倒なことを始めおって。」


そう言いたげな顔だった。




ベスは静かに剣を下ろす。


左腕へ意識を向ける。


「……分かりました。」


肩まで白銀の装甲が広がる。


蒼白い紋様が浮かび上がり、


左腕から溢れた銀色の魔力が空中で形を成す。


巨大な狼の前脚。


フェンリルが静かに顕現した。


ガルドは木剣を握り直す。


黒い霧がさらに濃くなる。


「ここからが本番だ。」


夜空の下。


















二人は再び剣を構えた。

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