ミレウス
翌朝。
太陽が昇る頃には、灰鷹は再び砂漠を歩き始めていた。
昨日見た黄金の鷹。
あれは夢ではない。
ベスは何度も空を見上げる。
しかし、その姿はどこにも見当たらなかった。
「本当にいたんだよな……。」
レオンが頭を掻く。
「あれだけでかけりゃ、すぐ見つかると思うんだけどな。」
ガルドは何も答えず、静かに歩き続ける。
昼過ぎ。
熱風が砂丘を駆け抜ける。
その時だった。
キィィィィィーー!!
澄み切った鳴き声が空へ響く。
全員が一斉に見上げた。
いた。
黄金の翼。
巨大な鷹は高い空を悠然と旋回している。
「いた!」
ノアが嬉しそうに手を振る。
黄金の鷹は一度だけ大きく旋回すると、ゆっくり南へ飛び始めた。
ベスはその姿を見つめる。
「また……。」
「俺たちを待ってる。」
ガルドは短く頷いた。
「行くぞ。」
誰も異論はなかった。
砂丘を越え。
岩場を抜け。
何時間も歩き続ける。
景色は相変わらず砂ばかり。
それでも黄金の鷹だけは、一定の距離を保ちながら飛び続けていた。
まるで灰鷹を導くように。
レオンが空を見上げる。
「なぁ。」
「あの鳥、結局何なんだ?」
ガルドの頭の上で丸くなっていた灰猫が、ゆっくり片目だけ開けた。
「……守護獣。」
一言だけ。
「短っ!」
レオンが思わず叫ぶ。
灰猫は欠伸を一つ。
「面倒。」
その一言で再び目を閉じる。
一同から苦笑が漏れた。
しばらく歩いてから、ベスが尋ねる。
「守護獣って、何なんだ?」
灰猫は嫌そうに尻尾を一度だけ揺らした。
「世界を。」
「見てる。」
また沈黙。
レオンは頭を抱える。
「だから説明が短いって!」
灰猫は少しだけ面倒そうな顔をすると、小さく続けた。
「必要なら。」
「助ける。」
「必要なければ。」
「見てるだけ。」
「……以上。」
アイラが思わず笑う。
「本当に面倒くさがりなのね。」
灰猫は小さく鼻を鳴らす。
「面倒。」
それ以上は何も話さなかった。
その時だった。
黄金の鷹がゆっくりと高度を下げ始める。
全員が足を止めた。
鷹は前方の砂丘を大きく旋回する。
そして。
大きく翼を広げた。
キィィィィィーー!!
轟く羽ばたき。
猛烈な風が砂丘を駆け抜ける。
ザァァァァ……
舞い上がった砂が次々と吹き飛ばされていく。
その向こうに見えたものを見て、誰もが息を呑んだ。
緑だった。
砂漠の真ん中に広がる大きな湖。
透き通る水面。
風に揺れるヤシの木。
色鮮やかな花々。
そして、水辺へ集まる鳥や小動物たち。
まるで砂漠だけが忘れてしまった楽園。
「……オアシス。」
リシアが小さく呟く。
ノアの顔がぱっと明るくなる。
「お水!」
レオンは目を丸くしたまま笑う。
「今度は蜃気楼じゃねぇよな?」
ガルドは静かに頷く。
「ああ。」
「本物だ。」
黄金の鷹は一度だけベスを見る。
次にノアを見る。
確認するような優しい眼差しだった。
そして。
静かに一声鳴く。
キィィィィィーー!!
黄金の翼は夕空へ舞い上がり、そのまま遥か彼方へ消えていった。
ベスはその背中を見送り、小さく呟く。
「……ありがとう。」
灰猫だけが薄く目を開ける。
「……合格。」
誰にも聞こえないほど小さな声。
その意味を知る者は、まだ誰もいなかった。




