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バル  作者: 隣の猫
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カルヴィア



砂蠍との戦いから半日。


灰鷹は再び灼熱の砂漠を歩き続けていた。


どこを見ても砂。


どこを見ても空。


目印になるものは何一つない。


「……本当に進んでるのか?」


レオンが周囲を見渡す。


「さっきから景色が変わってねぇぞ。」


アイラも苦笑した。


「私も同じことを思ってた。」


ガルドは振り返らない。


「砂漠では景色を信じるな。」


「風。」


「太陽。」


「地面。」


「それだけを信じろ。」


「景色に惑わされれば、生きては帰れん。」


その言葉に誰も軽口を返さなかった。




しばらく歩く。


ノアが小さく声を上げた。


「あっ。」


指差す先。


地平線の向こうに青い湖が見える。


木々が生い茂り、水面は陽の光を反射して輝いていた。


「水だ!」


レオンが思わず一歩踏み出す。


しかし。


ガルドが腕を伸ばして止めた。


「待て。」


「え?」


「あれは違う。」


「蜃気楼だ。」


全員がもう一度見る。


湖は確かにそこにあった。


だが、熱風が吹くたびに揺れ、形を変えていく。


やがて。


ふっと消えた。


「……消えた。」


ノアが目を丸くする。


「お水じゃなかった。」


ガルドは静かに頷いた。


「砂漠は希望すら幻に変える。」


「焦るな。」


「欲を出すな。」


「それだけで生き残れる。」


ベスは蜃気楼が消えた空を見つめた。


この大地では、心まで試される。


そんな気がした。




夕暮れ。


灼熱だった砂漠が赤く染まり始める。


熱風も少しだけ穏やかになった。


ノアが空を見上げる。


「きれい……。」


その言葉に全員が足を止めた。


燃えるような夕焼け。


赤く染まる砂丘。


昼間とはまるで違う、美しくも静かな世界が広がっていた。


だが、その静寂は突然破られる。


大きな影が一行を覆った。


「!」


全員が反射的に空を見上げる。


そこにいた。


巨大な鷹。


黄金色の翼は夕日に照らされ神々しく輝き、翼を広げれば数十メートルはあろうかという巨体が悠然と砂漠を旋回している。


羽ばたくたび、熱風が渦を巻き、砂丘が波のように揺れた。


「……でかい。」


レオンが思わず息を呑む。


アイラも弓へ手を伸ばく。


しかし。


「待て。」


ガルドが静かに制した。


「敵意はない。」


巨大な鷹はゆっくりと高度を下げる。


鋭い蒼い瞳が、ベスを見つめた。


次に。


ノアを見つめる。


その視線には敵意も殺意もなかった。


ただ、何かを確かめるようだった。


やがて。


キィィィィィーー!!


澄み切った鳴き声が砂漠中へ響き渡る。


巨大な鷹は南へ向かって飛び始めた。


だが。


一度だけ振り返る。


まるで。


「付いて来い。」


そう告げるように。


ベスはその姿から目を離せなかった。


「あいつ……。」


ガルドも静かに空を見上げる。


「砂漠の守護獣か。」


黄金の翼は夕焼けの彼方へ消えていく。


灰鷹はまだ知らない。

















その翼が、自分たちを新たな運命へ導こうとしていることを――。

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