ラディス
白銀の光が左腕を包む。
ベスは静かに息を吸った。
「……行く。」
獣爪を砂へ突き立てる。
ドォン!!
衝撃とともに大量の砂が巻き上がった。
乾いた熱風がその砂を押し上げる。
一瞬で巨大な砂煙が戦場を包み込む。
「ギシャァァッ!」
複眼を持つ砂蠍たちが一斉に暴れ始めた。
視界を奪われたのだ。
「今だ!」
ガルドが叫ぶ。
レオンが一直線に飛び込む。
「おらぁっ!」
大剣が砂蠍をまとめて吹き飛ばした。
アイラの矢が次々と急所を射抜く。
「右は任せて!」
「了解!」
リシアも剣を抜き、ノアの前へ立つ。
砂煙は仲間たちの姿まで隠していた。
だが灰鷹は迷わない。
互いの声だけで動ける。
積み重ねてきた時間が、それを可能にしていた。
巨大な砂蠍は尾を振り回す。
だが狙いが定まらない。
ベスは獣爪で砂を蹴り上げながら距離を変える。
攻撃はしない。
砂煙を維持する。
巨大な蠍の注意を引き続ける。
その動きを見て、ガルドが口元を緩めた。
「そうだ。」
「それでいい。」
ベスは小さく頷く。
昨日までなら力で押し切ろうとしていた。
だが今は違う。
勝つ方法は、一つではない。
「レオン!」
「左だ!」
「任せろ!」
レオンの大剣が巨大な鋏を弾き飛ばす。
その隙にアイラの矢が尾の毒針へ突き刺さった。
砂蠍は大きく体勢を崩す。
ガルドが一気に踏み込む。
「終わりだ。」
鋭い一閃。
巨大な甲殻へ深い傷が刻まれる。
砂蠍は低く唸ると、そのまま砂の中へ潜り始めた。
残っていた小型の砂蠍たちも、一斉に逃げ出す。
やがて戦場には静けさだけが戻った。
「はぁ……。」
レオンがその場へ座り込む。
「暑いし、疲れたし、最悪だ。」
ノアは思わず笑う。
「レオンおにいちゃん。」
「もう動けないの?」
「動ける。」
「でも動きたくない。」
その言葉に一同から小さな笑いが漏れた。
張り詰めていた空気が、ようやく解ける。
ベスは左腕を見つめた。
獣爪は静かに元の姿へ戻っていく。
「そんな使い方もできるんだな……。」
自分でも少し驚いていた。
ガルドが隣へ並ぶ。
「思いついたのか。」
「はい。」
「砂漠だから使えるかなって。」
ガルドは静かに頷いた。
「いい判断だった。」
「戦場は毎回違う。」
「同じ戦いなんて一つもない。」
「だから、その場で考えろ。」
「その考えた答えが、お前だけの戦い方になる。」
ベスは小さく笑う。
「はい。」
再び歩き始める灰鷹。
灼熱の風は変わらず吹き続ける。
その熱風の向こうには、まだ見ぬ砂漠がどこまでも広がっていた。
第四大陸南部。
その過酷な大地は、灰鷹へ次なる試練を静かに待ち受けていた。




