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バル  作者: 隣の猫
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184/410

アルケス



翌日。


灰鷹は本格的に砂漠へ足を踏み入れた。


どこまでも続く黄金色の砂。


容赦なく照りつける太陽。


乾いた熱風が頬を焼き、歩くだけで体力が奪われていく。


「……暑い。」


レオンが額の汗を拭う。


「荒野とは比べものにならねぇ。」


アイラも水筒を口へ運ぶ。


「水の減りが早い。」


「思っていた以上ね。」


リシアは全員を見回した。


「少しでも気分が悪くなったら、すぐ言ってください。」


「我慢は駄目です。」


ノアは帽子を押さえながら元気よく頷いた。


「うん!」




ガルドは先頭を歩き続ける。


「砂漠では魔物より先に自然が牙を剥く。」


「暑さ。」


「乾き。」


「そして地形。」


「すべてを敵だと思え。」


「はい。」


全員が真剣な表情で返事をする。


昨日の勝利に浮かれる者は誰一人いなかった。




昼過ぎ。


風が止まる。


いや。


空気そのものが重くなった。


ガルドが右手を上げる。


「止まれ。」


全員が足を止めた。


静かだ。


静かすぎる。


ベスは砂へ視線を落とす。


小さく揺れている。


「……団長。」


「ああ。」


ガルドも気付いていた。


ゴゴゴゴ……


地面の下から規則正しい振動が伝わってくる。


「来るぞ!」


ズドォォォン!!


巨大な砂柱が吹き上がる。


現れたのは、十数メートルはあろう巨大な砂蠍だった。


黄褐色の甲殻。


四本の巨大な鋏。


尾の先では黒紫色の毒針が不気味に揺れている。


「散開!」


ガルドの号令。


全員が一斉に飛び退いた。


ズガァァン!!


鋏が砂を砕き、大穴を穿つ。


まともに受ければ一撃だった。




「まだだ!」


ガルドが叫ぶ。


その直後だった。


ザザザザザッ!!


砂の下から次々と黒い影が飛び出す。


人ほどの大きさの黒い砂蠍。


十匹。


二十匹。


いや、それ以上。


「あんな数!」


アイラが矢を放つ。


一匹を射抜く。


だが後ろからすぐ次が現れる。


「囲まれた!」


レオンが大剣を振るい、蠍を吹き飛ばす。


しかし砂の下から終わりなく湧き出してくる。




リシアはすぐにノアの前へ立った。


「ノア!」


「私から離れないで!」


「うん!」


ノアも必死に頷く。


巨大な砂蠍はその様子を見下ろしながら低く唸る。


小型たちが一斉に飛びかかった。


「くっ!」


ベスは次々と剣を振るう。


一匹。


二匹。


三匹。


倒しても終わらない。


「数が多すぎる……!」


その時だった。


ガルドの声が響く。


「ベス!」


「数を減らすことだけ考えるな!」


「戦場を見ろ!」


その言葉に、ベスは動きを止めないまま周囲を見渡した。


砂。


熱風。


砂丘。


巨大な砂蠍。


そして無数の小型。


(戦場を見ろ。)


ガルドに何度も教えられた言葉。


昨日。


フェンリルが応えた時も。


自分は戦場全体を見ていた。


ベスの視線が左腕へ落ちる。


白銀の獣爪。


昨日までは、強くなるための力だと思っていた。


だが。


(違う。)


(力は、一つの使い方だけじゃない。)


ベスは静かに左腕を握り締める。


「……試してみるか。」



















白銀の光が、静かに獣爪を包み始めた。

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