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バル  作者: 隣の猫
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182/410

ノル



蒼白い光が荒野を駆ける。


その速度は、先ほどまでとは比べものにならなかった。


巨獣が鋭い爪を振るう。


ベスは紙一重で身をかわす。


爪は空を切り裂き、砂煙だけが舞い上がる。


「はぁっ!」


一閃。


白銀の軌跡が巨獣の肩を深く斬り裂いた。


黒い血が荒野へ飛び散る。


「グォォォォッ!」


巨獣は初めて苦悶の咆哮を上げた。




巨獣は大きく跳び退く。


その背後から壊人たちが一斉に襲いかかる。


「邪魔だ。」


ベスは静かに左腕を振るう。


獣爪が唸る。


衝撃波が一直線に荒野を駆け抜け、壊人たちはまとめて吹き飛ばされた。


「すげぇ……。」


レオンは目を見開いたまま呟く。


「あれが……。」


「フェンリルの継承者、本当の力なのか……。」


アイラも思わず息を呑む。


「今までのベスとは、まるで別人……。」


リシアは静かに首を横へ振った。


「ううん。」


「あれが、本当のベスなんだと思う。」


その瞳には怒りも憎しみもない。


あるのは、大切な人を守ろうとする強い意志だけ。


その意志に、フェンリルは応えたのだった。




巨獣は傷だらけだった。


呼吸も乱れている。


あと一撃。


それで決着がつく。


ベスは剣を構えた。


長年追い続けた母の仇。


ついに、その背中へ届く。


その時だった。


「ベス!」


ノアの悲鳴が響く。


振り返る。


別の魔物が、傷ついたリシアへ襲いかかっていた。


リシアは立ち上がれない。


ノアも動けない。


目の前には仇。


後ろには仲間。


ほんの一瞬。


時間が止まったようだった。




巨獣は低く唸る。


見逃してやっただろう。


そう言わんばかりに。


ベスは静かに息を吐く。


そして。


剣を下ろした。


「……行け。」


その一言だけ残し、踵を返す。


一直線にリシアたちの元へ駆け出した。


白銀の獣爪が魔物を弾き飛ばす。


剣が閃く。


リシアの前へ立つ。


「大丈夫か!」


「……うん。」


リシアは安心したように微笑んだ。


その間に。


巨獣は一度だけベスを見つめる。


復讐を捨てた男を見つめるように。


そして静かに背を向け、荒野の彼方へ姿を消していった。


統率を失った魔物たちも、次々と逃げ去っていく。


やがて荒野には静寂だけが戻った。




ガルドはゆっくりと剣を鞘へ納める。


その足元を歩いていた灰猫が、ひらりと軽く跳び上がった。


肩へ乗る。


そして何事もなかったように、頭の上へちょこんと座った。


ガルドは少しだけ目を細める。


「……いつもの場所か。」


灰猫は返事をしない。


尻尾を一度だけ揺らすと、そのまま静かに目を閉じた。


ベスはその光景を見つめる。


黒い霧は、もうどこにもなかった。


言葉はない。


それでも十分だった。


ガルドが自分を失わずにいられた理由。


灰猫が、ずっとその傍らで支え続けていた理由を。


ベスは胸の中で静かに理解する。




ガルドがベスの隣へ並ぶ。


「追わないのか。」


ベスは遠ざかる巨獣を見つめたまま、小さく笑った。


「前の俺なら、追っていました。」


そして仲間たちへ視線を向ける。


レオン。


アイラ。


リシア。


ノア。


そして頭の上で静かに眠る灰猫とガルド。


「でも今は。」


「みんなが生きていてくれる方が、大事です。」


ガルドは何も言わなかった。


ただ、小さく頷く。


その頷きだけで十分だった。


荒野を渡る風は優しく吹き抜ける。





















復讐だけを追い続けた少年は、この日――本当のフェンリルの継承者として、新たな一歩を踏み出した。

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