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バル  作者: 隣の猫
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181/417

レイファ



ガルドが前へ立つ。


灰色の亡霊。


その剣は、荒野を駆ける黒き疾風だった。


魔物は次々と倒れていく。


だが。


巨獣だけは動かない。


静かに、その時を待っていた。




「団長!」


レオンが叫ぶ。


ガルドの呼吸が少しずつ荒くなる。


黒い霧も濃くなり始めていた。


灰猫は静かにその足元へ寄り添っている。


それでも。


魔物は次から次へと押し寄せる。


「くっ……!」


アイラは弓を背へ戻し、短剣を抜く。


矢は尽きていた。


リシアも剣を握る。


「ノアは私が守る!」


「うん!」


ノアは震えながらも頷いた。


誰一人、諦めてはいなかった。




その瞬間。


巨獣が動く。


一直線。


狙いはガルドではない。


「ノア!」


巨獣は戦場の隙を突き、一気にノアへ襲いかかった。


「しまっ!」


レオンでも届かない。


アイラも間に合わない。


リシアが飛び出す。


細身の剣で受け止める。


ガギィィン!!


凄まじい衝撃。


リシアは吹き飛ばされ、地面へ転がった。


「リシア!」


それでも彼女は立ち上がる。


足は震えていた。


腕も痺れている。


それでもノアの前へ立つ。


「……通さない。」


小さな背中。


だが、その背中は誰よりも大きく見えた。




巨獣が再び爪を振り上げる。


ノアは動けない。


リシアも限界だった。


ベスはその光景を見つめる。


脳裏によみがえる。


母。


炎。


血。


そして今。


リシア。


ノア。


仲間たち。


また失うのか。


また守れないのか。


違う。


もう違う。


ベスは静かに拳を握った。


「……もう誰も失わない。」


その一言に、迷いはなかった。


復讐ではない。


怒りでもない。


守りたい。


ただ、その想いだけだった。




その瞬間。


左腕のフェンリルが大きく脈打つ。


ドクン――


白銀の光が獣爪を包み込む。


荒野を吹き抜ける風が止まる。


世界が静まり返った。


『……ようやく聞けた。』


深く、穏やかな声。


『怒りではなく。』


『憎しみでもなく。』


『守るという願いを。』


ベスはゆっくりと頷く。


「ああ。」


『ならば応えよう。』


『継承者よ。』


『我が爪を、その身に預ける。』


轟音とともに蒼白い光が空へ駆け上がる。


獣爪はさらに姿を変えた。


肩まで白銀の装甲が広がり、蒼白い紋様が淡く浮かび上がる。


その神々しい姿に、誰もが息を呑んだ。




ガルドは静かにその姿を見つめる。


そして、小さく頷く。


「……そうか。」


それだけだった。


ガルドが見ていたのは力ではない。


ベスの瞳だった。


怒りに染まっていた少年の目は、もうどこにもない。


そこにいたのは、仲間を守るために立つ、一人の戦士だった。




ベスはゆっくりと巨獣へ剣を向ける。


「お前は。」


静かな声だった。


「ここで倒す。」


「みんなを守るために。」


巨獣が咆哮を上げる。


ベスは地面を蹴った。


蒼白い光が荒野を駆け抜ける。


復讐の獣ではない。


仲間を守る者として。


















フェンリルの継承者は、新たな一歩を踏み出した。

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