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バル  作者: 隣の猫
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シルス



「全員、俺の後ろへ下がれ。」


ガルドの静かな声が荒野へ響く。


誰も動けなかった。


ガルドはゆっくりと剣を構える。


その瞬間――


足元から黒い霧が立ち昇る。


サァ……


空気が一変した。


熱風さえ止まったように感じる。


左目が静かに赤く染まっていく。


黒い霧は腕を伝い、身体へゆっくりと絡みついた。


その姿を見た瞬間。


レオンが息を呑む。


「まさか……。」


アイラも目を見開く。


「あれは……。」


リシアが震える声を漏らした。


「亡霊状態……。」


ベスは信じられない表情でガルドを見つめる。


「なくなったんじゃ……。」


「亡霊は、もう……。」


誰もがそう思っていた。


あの日。


虚無の使徒によって、二十年前――灰色の亡霊と恐れられた姿へ戻されたガルド。


ベスが剣を叩き折り。


最後に灰猫が静かに歩み寄り、その暴走を鎮めた。


あの戦いで終わったはずだった。


だが違う。


亡霊は消えたのではない。


ずっと、ガルドの中で眠り続けていたのだ。


そして灰猫は、その眠りを静かに見守り続けていた。




ガルドは小さく息を吐く。


「……行くぞ。」


その声は、いつものガルドだった。


次の瞬間。


姿が消える。




ザンッ!!


一閃。


サンドウルフ三匹が同時に倒れる。


さらに踏み込み、岩蜥蜴を斬り伏せる。


壊人が迫る。


しかし剣を振り下ろす前に、その身体は崩れ落ちた。


黒い霧だけが荒野を駆け抜ける。


その剣は速く。


そして静かだった。


まるで風が通り抜けるように、魔物だけを正確に斬り伏せていく。


「これが……。」


レオンは呆然と呟く。


「灰色の亡霊……。」


誰も近づけない。


誰も追いつけない。


二十年前に最強と恐れられた男は、今もなお健在だった。




しかし。


ガルドは時折、小さく眉をひそめる。


剣を握る手に、わずかに力が入る。


黒い霧が濃くなったかと思えば、また静かに薄れていく。


まるで何かと戦っているようだった。


ベスはその姿を見て気付く。


「団長は……。」


「亡霊と戦ってる。」


外の敵ではない。


自分自身と。




その時。


「ニャ。」


小さな鳴き声が響く。


灰猫が静かにガルドの足元まで歩いていく。


ガルドは一瞬だけ猫へ視線を向けた。


その表情が少しだけ和らぐ。


「……大丈夫だ。」


誰へ向けた言葉なのか。


猫なのか。


それとも自分自身なのか。


灰猫は安心したように一度だけ尻尾を揺らす。


黒い霧も、それに応えるように少しだけ穏やかになった。


ベスは静かに剣を握る。


(団長は一人で戦ってるんじゃない。)


(猫も、一緒に戦ってるんだ。)

























その姿は、ベスの胸へ深く刻み込まれた。

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