表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バル  作者: 隣の猫
PR
18/397

カストル



「走れ!」


ガルドの声が神殿に響く。


灰鷹は一斉に駆け出した。


背後から重い足音が迫る。


一歩。


また一歩。


振動だけで天井から砂が降り注ぐ。


「速すぎる……!」


ボルグが息を切らしながら叫ぶ。


誰も追いつかれるとは言わない。


だが、その恐怖は全員が感じていた。


ベスは最後尾を走っていた。


仲間たちの背中を見失わないよう、必死に足を動かす。


それでも心のどこかで、セレネの最後の微笑みが離れなかった。


「必ず助ける。」


誰にも聞こえないほど小さく呟く。


その約束だけを胸に刻んだ。



突然、神殿全体が大きく揺れた。


ゴゴゴゴゴ……!


「崩れるぞ!」


エインが叫ぶ。


天井から巨大な岩が落ちてくる。


ガルドが剣で軌道を逸らす。


ボルグが盾で受け止める。


灰鷹は互いを支えながら出口を目指した。


あと少し。


光が見えた、その時――。


「危ない!」


リシアの声。


ベスが振り返る。


崩れた柱の下敷きになりそうな若い団員がいた。


まだ十六、七歳ほどの新人。


恐怖で足が動いていない。


考えるより先に、ベスの身体が動いた。


柱へ飛び込む。


左腕で受け止める。


ミシッ……。


腕に激痛が走る。


歯を食いしばる。


「早く!」


新人は我に返り、必死に這い出した。


次の瞬間。


ガルドとボルグが駆け寄る。


二人で柱を押し返し、ベスを引きずり出した。


直後、天井が完全に崩れ落ちる。


轟音。


土煙。


出口への道が閉ざされた。


「しまった……!」


ボルグが拳を握る。


しかしエインは冷静だった。


「まだ道はある!」


彼は脇道を指差す。


古い非常通路。


人一人がやっと通れるほど狭い。


「全員、急げ!」


灰鷹は迷わず飛び込む。


誰一人置いていかない。


それが彼らの誇りだった。



ようやく神殿の外へ飛び出す。


冷たい風が頬を打つ。


全員が地面へ倒れ込み、大きく息を吐いた。


その直後。


神殿全体がゆっくりと崩れ始める。


巨大な石柱が折れ、


壁が砕け、


白い霧の中へ沈んでいく。


静かに。


まるで何千年もの眠りへ戻るように。


ベスは立ち尽くしていた。


「あの人は……。」


助けられなかった。


約束したのに。


拳を強く握る。


悔しさが込み上げる。


ガルドが隣へ立った。


「自分を責めるな。」


「でも!」


「約束したんだ!」


ガルドはしばらく黙っていた。


やがて静かに口を開く。


「約束は。」


「守れなかった時に終わるものじゃない。」


ベスは顔を上げる。


「守れる日まで、生き続けるためにある。」


その言葉は、胸の奥深くへ染み込んだ。



砦への帰路。


誰も多くを語らなかった。


戦いには勝った。


だが神殿では何一つ解決していない。


魔物ではない存在。


封印。


セレネ。


そして、世界の真実。


背負うものが、一気に増えた。


夕暮れの空を見上げるベス。


赤く染まる雲の向こうで、一つの流れ星が尾を引いた。


「待っていてくれ。」


「俺は必ず強くなる。」


それは神への復讐を誓う言葉ではなかった。


一人の命を救えなかった少年が、


もう二度と同じ後悔を繰り返さないために立てた、新しい誓いだった。


その小さな変化を、ベス自身はまだ知らない、、、。



















しかしその一歩こそが、未来で世界を救う青年への、本当の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ