アルシェル
荒野へ入って三日。
灰鷹は休む間もなく歩き続けていた。
昼は灼熱。
夜は骨まで凍える寒さ。
そのどちらも容赦なく体力を奪っていく。
それでも一行は歩みを止めなかった。
「まただ。」
アイラが低く呟く。
遠くの岩陰から、何匹もの魔物がこちらを見つめている。
しかし襲ってこない。
ただ見ているだけ。
レオンは眉をひそめた。
「気味が悪ぃな。」
ガルドは静かに周囲を見渡した。
「縄張り争いじゃない。」
「……集められている。」
その言葉に空気が変わる。
「集められてる?」
ベスが尋ねる。
「ああ。」
「誰かが意図的に動かしている。」
その直後だった。
ゴォォォ……
乾いた大地が震え始める。
砂煙が立ち上る。
遠くの岩山の向こうから、一体、また一体と巨大な影が姿を現した。
サンドウルフ。
岩蜥蜴。
毒尾蠍。
巨大な嘴を持つ荒鷲。
さらには、以前戦った壊人までもが混じっている。
レオンが思わず笑う。
「おいおい……。」
「冗談だろ。」
数十。
いや、
百を超える魔物たちが荒野を埋め尽くしていた。
ノアがベスの服をぎゅっと掴む。
「ベス……。」
「大丈夫だ。」
そう答えながらも、ベスは剣を強く握る。
これほどの数は初めてだった。
ガルドも剣へ手を掛ける。
「全員。」
「死ぬ気で生き残れ。」
短い命令。
それだけで十分だった。
その時。
魔物の群れが、左右へゆっくりと割れ始める。
まるで、誰かへ道を譲るように。
ズシン……
ズシン……
重い足音。
全身を黒い甲殻に覆われた異形、六本の脚、四本の腕、顔には目がなく、裂けた口だけが不気味に笑っている、一体の巨獣がベスを見つめていた。
その姿を見た瞬間――
ベスの呼吸が止まる。
脳裏に蘇る。
燃え盛る村。
母の悲鳴。
血に染まった大地。
幼い自分の前で笑っていた、あの魔物。
「……お前。」
震える声が漏れる。
何年も忘れたことのない姿。
何度も夢で見た悪夢。
レオンが驚いたように振り返る。
「ベス?」
ベスは答えない。
ただ、その魔物だけを見つめていた。
魔物はゆっくりと口角を吊り上げる。
まるで、ベスを覚えていたかのように――。




