リュシア
灰鷹は、乾いた大地を歩き続けていた。
世界樹の緑は、もう遥か後方。
目の前に広がるのは、赤茶けた荒野だけだった。
照りつける太陽。
熱風が砂を巻き上げる。
歩くだけで体力が奪われていく。
「……暑い。」
レオンが額の汗を拭う。
「森とは別世界だな。」
アイラも辺りを見渡す。
「植物がほとんどありません。」
「これでは獣も長くは生きられないでしょう。」
リシアは小さく頷く。
「水も節約しないと。」
腰の水袋を確認する。
残りは決して多くない。
「ノア。」
「喉が渇いたら我慢しちゃ駄目だからね。」
「うん!」
ノアは元気よく返事をしたものの、その額にも汗が滲んでいた。
ベスは黙って周囲を見渡す。
森とは違う。
気配が薄い。
静かすぎる。
その静けさが、かえって不気味だった。
昼を過ぎた頃。
ガルドが右手を上げる。
「止まれ。」
全員が足を止めた。
風が吹く。
サラサラ……
乾いた砂が地面を流れていく。
その音に混じって、小さな音が聞こえた。
カサ……
カサカサ……
「……何かいる。」
ベスが剣へ手を掛ける。
次の瞬間。
砂の中から黒い影が飛び出した。
鋭い牙。
黄色い瞳。
全身を砂色の毛で覆った狼だった。
「サンドウルフ!」
アイラが叫ぶ。
だが、それだけでは終わらない。
二匹。
三匹。
五匹。
砂の中から次々と姿を現す。
レオンが大剣を構える。
「歓迎ってわけか!」
サンドウルフたちは低く唸りながら、灰鷹を取り囲んだ。
逃げ道はない。
ガルドは静かに剣を抜く。
「落ち着け。」
「囲まれた時ほど、慌てた方が負ける。」
その一言で仲間たちの呼吸が整う。
「行くぞ!」
レオンが先陣を切る。
一匹目を豪快に斬り飛ばす。
だが、その隙を狙って別の一匹がノアへ飛びかかった。
「ノア!」
ベスが踏み込もうとした、その時。
ヒュンッ!
一本の矢が狼の眉間を貫く。
アイラだった。
「前だけ見ない!」
「周囲も見て!」
ベスは頷く。
「ああ!」
リシアは傷ついたレオンへすぐに駆け寄る。
「大丈夫?」
「これくらい平気だ!」
傷口へ手を添える。
淡い光が溢れ、裂けた皮膚がゆっくりと塞がっていく。
「助かった!」
「まだ終わってないよ!」
リシアは笑いながら立ち上がった。
ガルドは一歩も動かず、戦場全体を見渡している。
「右から二匹。」
「レオン。」
「左はベス。」
「アイラは後方支援。」
短い指示だけで、灰鷹は一つの生き物のように動き始めた。
数分後。
最後のサンドウルフが静かに倒れる。
荒野に再び静寂が戻った。
「ふぅ……。」
レオンは剣を肩へ担ぐ。
「荒野の歓迎にしちゃ、随分派手だったな。」
ガルドは倒れたサンドウルフを見下ろした。
「……違う。」
「これは偵察だ。」
その言葉に全員が顔を上げる。
ガルドは荒野の彼方を見据える。
「本命は、この先にいる。」
熱風が再び吹き抜ける。
その風に乗って――
遠くから、獣とも魔物ともつかない低い咆哮が響いた。
灰猫だけが、その音のする方をじっと見つめていた。




