カルメス
世界樹の神殿をあとにした灰鷹は、静かな森の中を歩いていた。
誰も口数は多くない。
神殿で知った真実が、それぞれの胸へ深く刻まれていた。
ノアはベスの隣を歩きながら、何度も世界樹を振り返る。
やがて、その姿も木々の向こうへ静かに消えていった。
「団長。」
歩きながらアイラが神殿で写し取った石碑を開く。
「最後に、一つだけ読めていない文章があります。」
ガルドは歩みを止めた。
「読め。」
全員が足を止める。
アイラは静かに息を整え、古代文字を読み上げた。
『残された光を探せ。』
それだけだった。
短い一文。
しかし、その場にいた誰も意味を理解できない。
「残された……光?」
レオンが腕を組む。
「宝のことか?」
アイラは首を横に振る。
「分かりません。」
「他には何も刻まれていませんでした。」
リシアは小さく空を見上げる。
「きっと……。」
「いつか分かる日が来るのでしょうね。」
ガルドは静かに写本を閉じた。
「今は覚えておけばいい。」
「意味は、その時に分かる。」
誰もそれ以上は口にしなかった。
再び歩き始める。
しばらくすると、景色が少しずつ変わり始めた。
青々と茂っていた木々は減り、
草花はまばらになり、
足元の土は乾き始める。
湿った空気は消え、熱を帯びた風が頬を撫でた。
「暑い……。」
ノアが額の汗を拭う。
リシアは水筒を差し出す。
「少しずつ飲もうね。」
「うん。」
ノアは笑顔で頷いた。
さらに歩き続ける。
やがて最後の木を越えた、その瞬間――
全員の視界が一気に開けた。
どこまでも続く乾いた大地。
赤茶けた岩肌。
容赦なく照りつける太陽。
世界樹の森とは、まるで別世界だった。
レオンが思わず息を吐く。
「すげぇ……。」
「同じ大陸とは思えねぇ。」
アイラも静かに頷く。
「生えている草木も、地質も、まるで違います。」
ベスは遥か彼方まで続く荒野を見つめた。
乾いた大地が、どこまでも広がっている。
風は熱を帯び、静けさだけが辺りを満たしていた。
その先には――
虚無の使徒が待っている。
ガルドは乾いた大地を見据えたまま、小さく口を開く。
「……ここからが、本当の第四大陸だ。」
誰も問い返さない。
目の前に広がる過酷な景色だけで、その言葉の意味は十分に伝わっていた。
灰鷹は灼熱の荒野へ、一歩を踏み出す。
南の大陸の旅は、まだ終わらない。
その中でただ一人――
灰猫だけは、とても嫌そうな顔をしていた。




