ミルディア
祭壇を包んでいた黄金の光は、ゆっくりと消えていった。
世界樹も再び静寂を取り戻す。
葉がわずかに揺れる音だけが、神殿へ静かに響いていた。
「調査を続ける。」
ガルドの指示で、灰鷹は手分けして神殿の内部を調べ始めた。
壁画。
石碑。
崩れた棚。
祭具と思われる石の器。
どれも長い年月を物語っている。
アイラは壁一面に刻まれた文字を書き写していた。
「こちらは読めそうです。」
全員が集まる。
アイラは静かに石碑を読み上げた。
『世界樹の声を聞く者を、巫女と呼ぶ。』
その場に静寂が落ちる。
アイラは続ける。
『巫女は俗世より遠ざけよ。』
『人里離れた地に村を築き、その血を守り継げ。』
リシアは息を呑んだ。
「人里離れた村……。」
ガルドも静かに頷く。
「あの村か。」
ノアは不思議そうに首を傾げる。
「お母さんね。」
「外へ行っちゃだめって、いつも言ってた。」
「村のみんなも、あんまり外へ出なかったよ。」
その何気ない一言で、全員の視線がノアへ向く。
アイラはゆっくりと石碑へ視線を戻した。
「……間違いありません。」
「ノアの村は、この神殿を守ってきた人々の村だったのでしょう。」
さらに石碑には、続きが刻まれていた。
『継承者は巫女を守る者。』
『巫女は継承者へ道を示す者。』
そこから先は風化し、読むことはできなかった。
ベスは静かにノアを見る。
ノアは意味が分からないまま、小さく首を傾げていた。
「わたし……?」
リシアは優しく肩へ手を置く。
「急に信じられないよね。」
「でも、一つだけ確かなことがある。」
「ノアが世界樹の声を聞いたから、あの扉は開いた。」
ノアは戸惑いながらも、小さく頷いた。
ガルドは石碑を見つめ、低く口を開く。
「ノアは一人にするな。」
その一言だけだった。
誰も異論はない。
ベスはノアの前へ立つ。
「ああ。」
「俺が守る。」
ノアは少し照れくさそうに笑った。
「……うん。」
世界樹は静かに葉を揺らしていた。
まるで、新たな守り人たちを見届けるように。




