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バル  作者: 隣の猫
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アストラ



ゴゴゴゴ……


重い石扉がゆっくりと開いていく。


冷たい空気が流れ出し、外の蒸し暑さが嘘のように消えた。


ガルドが先頭に立つ。


「警戒を怠るな。」


「はい。」


灰鷹は慎重に神殿の中へ足を踏み入れた。




神殿の内部は静まり返っていた。


幾本もの石柱が天井を支え、壁一面には古い壁画や文字が刻まれている。


床には長い年月の埃が積もり、人が訪れた形跡はない。


足音だけが静かに響いた。


コツ……


コツ……


ノアは少し不安そうにベスの服を握る。


「暗いね……。」


ベスは優しく笑った。


「みんな一緒だ。」


「怖くない。」


ノアは安心したように小さく頷く。




「これは……。」


アイラが壁へ近付く。


刻まれた文字へそっと手を添え、一文字ずつ目で追っていく。


「神代文字ではありません。」


「もっと古い文字です。」


リシアも隣へ立つ。


「読めるの?」


「全部ではありません。」


「でも、少しだけなら。」


アイラはゆっくり読み始める。


「『大樹は命を……』」


「『星の子を……』」


「その先は風化して読めません。」


ガルドは静かに腕を組む。


「続きは分かるか。」


アイラは首を横に振った。


「ここが欠けています。」




その時だった。


ノアが首を傾げる。


「あれ?」


全員が振り向く。


「どうした?」


ベスが尋ねる。


ノアは壁を見つめたまま、小さく笑った。


「知ってる。」


「え?」


アイラが目を丸くする。


ノアは照れくさそうに頭を掻いた。


「これね。」


「お母さんが歌ってくれた。」


「寝る前にいつも。」


そう言うと、ノアは小さな声で歌い始めた。


「大樹よ眠れ


星の子包み


命の灯を


永久に守れ──」


透き通るような幼い歌声が神殿へ響く。


誰も言葉を発しなかった。


その歌は、子守歌とは思えないほど神聖だった。




歌が終わった、その瞬間。


ゴォォォ……


神殿全体が淡く震え始める。


「なっ……!」


レオンが辺りを見回す。


壁へ刻まれた文字が一つ、また一つと青白く輝き始めた。


石柱。


床。


天井。


古代文字がまるで命を吹き返したように光を放つ。


ノアは驚いてベスの後ろへ隠れた。


「ベ、ベス……。」


「俺の後ろに。」


ベスは剣へ手を添える。


しかし敵意は感じない。




神殿最奥。


今まで閉ざされていた巨大な石扉が、ゆっくりと動き始める。


ゴゴゴゴ……


長い眠りから目覚めるような重い音が響く。


アイラは震える声で呟いた。


「まさか……。」


「今の歌が。」


リシアも信じられない表情を浮かべる。


「偶然……?」


ノアは困ったように首を傾げる。


「どうしたの?」


「変な歌だった?」


ベスは優しく頭を撫でた。


「いや。」


「きっと、大事な歌なんだ。」


ノアは意味が分からないまま、小さく笑った。


その無邪気な笑顔とは対照的に、ガルドと灰猫だけは静かに顔を見合わせる。


二人は何も言わない。


だが、その胸には同じ確信が生まれていた。


――この子は、この神殿に導かれている。






















そして開いた石扉の奥から、眩い光が静かに溢れ出していた。

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