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バル  作者: 隣の猫
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フェリウス



翌朝。


灰鷹は泉をあとにし、再び赤き森の奥へ歩き始めた。


最初は歩きやすかった獣道も、次第に姿を消していく。


巨大な木の根が地面を覆い、絡み合った蔦が行く手を塞ぐ。


空を見上げても、葉が幾重にも重なり、陽の光はほとんど届かない。


昼だというのに薄暗かった。




「蒸し暑いな……。」


レオンが額の汗を拭う。


服はすでに汗で濡れていた。


アイラも息を整えながら周囲を見回す。


「方角が分かりにくいですね。」


「景色が全部同じに見えます。」


ガルドは立ち止まり、木々を見上げる。


「太陽は当てにならん。」


「目印を残しながら進む。」


団員たちは木へ小さな傷を刻みながら歩き始めた。




しかし、一時間後。


「……団長。」


先頭の団員が困惑した声を上げる。


そこには、さっき傷を付けたはずの木が立っていた。


「戻ったのか?」


レオンが辺りを見渡す。


アイラは首を横に振る。


「違います。」


「目印が……ありません。」


傷が消えていた。


まるで最初から何も刻まれていなかったように。


ガルドの表情が険しくなる。


「森が……傷を塞いでいるのか。」


灰猫が低く唸る。


「いや。」


「森そのものが動いておる。」


誰も言葉を返せなかった。




ノアは不安そうにベスの手を握る。


「迷っちゃうの?」


ベスはしゃがみ込み、安心させるように笑った。


「迷わない。」


「みんながいるから。」


ノアは小さく頷く。


「……うん。」


その笑顔を見たリシアも少しだけ表情を和らげた。




歩けば歩くほど、森は静かになっていく。


鳥はいない。


獣もいない。


風さえ吹かない。


聞こえるのは、自分たちの足音だけだった。


その静けさが、かえって不気味だった。




やがてアイラが足を止める。


「見てください。」


地面一面に白い花が咲いていた。


昨日見た花と同じだった。


しかし、その数は何百、何千。


森の床を埋め尽くしている。


ノアは思わず声を漏らす。


「きれい……。」


リシアも目を細める。


「こんな場所に……。」


ガルドだけは動かなかった。


「誰も近付くな。」


低い声だった。


「団長?」


ガルドは花畑の中央を見つめている。


そこには、人の骨が静かに横たわっていた。


一人ではない。


二人でもない。


何十人もの白骨が、花に抱かれるように眠っていた。


誰一人、武器を抜いた形跡もない。


逃げた形跡もない。


まるで眠るように息絶えている。


灰猫が小さく呟く。


「……この森は。」


「生き物を喰う。」













その一言に、全員の背筋へ冷たいものが走った。

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