表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バル  作者: 隣の猫
PR
165/417

カルセア



翌朝。


赤牙の群れが去った森には、静かな朝が訪れていた。


昨夜の戦いが嘘だったかのように、風が木々を揺らしている。


灰鷹は出発の支度を整えていた。


「全員、怪我はないな。」


ガルドの確認に、団員たちが頷く。


リシアも微笑む。


「大きな怪我はありません。」


「でも無理は禁物ですよ。」


レオンは肩を回しながら笑った。


「猿の拳は勘弁してほしいけどな。」


その言葉に、周囲から小さな笑いが漏れる。


重かった空気が、ほんの少しだけ和らいだ。




「ベス。」


小さな声が聞こえた。


振り返ると、ノアが服の裾を掴んでいた。


「どうした?」


ノアは少しだけ俯く。


「……ありがとう。」


「助けてくれて。」


ベスは優しく頭を撫でた。


「礼なんていい。」


「仲間だからな。」


その言葉に、ノアは目を丸くする。


「……なかま?」


「ああ。」


「ノアはもう灰鷹の仲間だ。」


ノアは少しだけ黙っていた。


やがて、小さく笑う。


「……うん!」


その笑顔は昨日よりもずっと自然だった。




歩き始めて数時間。


景色が少しずつ変わり始める。


乾いた岩肌は姿を消し、大地は深い緑に覆われていく。


巨大な木々。


絡み合う蔦。


見上げても空が見えないほど、生い茂った葉。


湿った空気が肌へまとわりつく。


レオンは思わず空を見上げた。


「同じ大陸なのに、全然違うな。」


アイラも周囲を見回す。


「暑さは変わりませんけど……。」


「まるで別世界です。」


リシアは静かに葉へ触れる。


「森が生きています。」


「でも……。」


その表情は少し曇っていた。


「何かがおかしい。」




灰猫が耳を動かす。


「気付いたか。」


「動物がおらん。」


全員が立ち止まる。


確かに。


鳥の声も。


虫の羽音も。


何一つ聞こえない。


静かすぎた。


ガルドは剣へ手を添える。


「警戒を強める。」




その時。


ノアが小さく呟いた。


「……きれい。」


皆が振り向く。


木々の隙間から、一輪の白い花が咲いていた。


荒れ果てた大陸では初めて見る花だった。


ノアは嬉しそうに近付こうとする。


「待て。」


ガルドが静かに制した。


ノアは足を止める。


次の瞬間。


ズズズ……


白い花の根元が大きく盛り上がる。


地面そのものが動いた。


「全員、下がれ!」


巨大な根が土を突き破り、一行の目の前へ姿を現す。


それは植物だった。


だが、普通の植物ではない。


幹には無数の口。


蔦は蛇のように蠢き、真紅の花弁が獣の牙のように開いていく。


森そのものが、生きている。


ベスは静かに剣を抜いた。


「今度は……植物か。」


誰も知らなかった。


















この赤き森には、壊人でも魔物でもない、森そのものが生み出した脅威が待ち受けていることを――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ