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バル  作者: 隣の猫
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ソンブラ



風が止む。


ベスと群れの長。


互いに剣を構えたまま動かない。


周囲では灰鷹と赤牙の群れが戦い続けている。


しかし、この場だけは不思議な静寂に包まれていた。




「来い。」


ベスは静かに呟く。


その瞬間。


長が地面を蹴った。


速い。


一直線。


折れた剣が唸りを上げる。


ガキィン!!


激しい火花が散る。


一撃。


二撃。


三撃。


長は力任せではない。


人間の剣術を真似るように、絶え間なく攻撃を繰り出してくる。


「強い……。」


だが。


ベスの表情は落ち着いていた。


目は剣だけを追っていない。


肩。


足。


重心。


呼吸。


リシアとの修行。


東の一人旅。


積み重ねてきたすべてが、今のベスの目となっていた。




(そこだ。)


長の右足が僅かに沈む。


次は左から薙ぐ。


読めた。


ベスは半歩だけ踏み込む。


長の懐へ潜り込んだ。


「終わりだ。」


一閃。


銀色の軌跡が走る。


折れた剣が宙を舞った。


長は数歩よろめく。


膝をつく。




周囲の猿たちが動きを止める。


長はベスを見上げた。


その瞳から敵意は消えていた。


静かに拳を胸へ当てる。


ドン。


一度だけ。


まるで戦士として敬意を示すように。


ベスも剣を下ろした。


「ありがとう。」


その一言に応えるように、長は静かに目を閉じる。


ゆっくりと前へ倒れた。




長が倒れた瞬間だった。


赤牙の群れは一斉に後ろへ飛び退く。


誰一人襲ってこない。


長の亡骸へ視線を向ける。


やがて一体が低く鳴いた。


「グル……。」


その声に続くように、群れ全体が森の奥へ向かって歩き始める。


追う者はいなかった。


ガルドは剣を納める。


「群れは終わった。」


レオンは肩で息をしながら笑う。


「魔物にも、あんな奴がいるんだな。」


アイラは静かに頷く。


「最後まで、王でした。」




ノアはそっとベスの服を掴む。


「……ベス。」


ベスは振り返る。


「勝った?」


ベスは優しく笑った。


「ああ。」


「みんなで勝った。」


ノアも小さく笑う。


それは、この大陸へ来て初めて浮かべた、心からの笑顔だった。


その笑顔を見て、リシアも静かに微笑む。


灰猫は欠伸をしながら呟いた。


「少しは様になってきたの。」


ベスは群れの長が眠る場所を一度だけ見つめる。


力ではなく。


経験でもなく。



















積み重ねた想いと成長が、この勝利を掴ませてくれたのだった。

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