ヴェルスタ
「囲まれた。」
ガルドの声と同時に、赤牙の群れが一斉に襲い掛かる。
四方八方から伸びる爪。
唸り声。
土煙。
「右だ!」
「後ろ!」
灰鷹の団員たちが互いに声を掛け合いながら迎え撃つ。
連携は崩れない。
だが、敵の数が多すぎた。
レオンは大剣を横薙ぎに振るう。
「どけぇぇぇ!」
二体まとめて吹き飛ばす。
しかし、その隙を突くように別の猿が背後へ回り込む。
ガキン!
間一髪。
ガルドの剣が爪を受け止めた。
「前だけを見るな。」
「分かってる!」
レオンは笑いながら再び剣を振るう。
アイラの矢が次々と放たれる。
一本。
二本。
三本。
狙いは正確だった。
しかし猿たちは木や岩を盾にしながら距離を詰めてくる。
「本当に賢い……!」
今まで戦ってきた魔物とは違う。
連携し、役割を分け、隙を狙ってくる。
まるで訓練された兵士だった。
その頃。
長はまだ動かない。
高い岩の上から静かに戦場を見下ろしている。
「……。」
ベスは剣を構えたまま長を見つめる。
「あいつが動かない限り終わらない。」
灰猫が尻尾を揺らす。
「ようやく気付いたか。」
「群れは頭を落とせば乱れる。」
ベスは頷いた。
「なら。」
「俺が行く。」
ベスは一気に駆け出す。
猿たちが行く手を塞ぐ。
左の獣爪で一体を弾き飛ばし、剣で二体目を斬り払う。
前へ。
ただ前へ。
岩の上まであと少し。
その時だった。
長が初めて動く。
ドンッ!
巨大な身体が岩から飛び降りる。
着地の衝撃だけで地面が陥没した。
ベスは思わず足を止める。
「でかい……。」
他の猿より頭一つ大きい。
筋肉は岩のように盛り上がり、左肩には古い傷跡が走っている。
そして右手には――
折れた剣が握られていた。
「……剣?」
ベスは目を見開く。
魔物が武器を持っている。
その異様な光景に、一瞬だけ思考が止まった。
灰猫が低く呟く。
「人間と戦って覚えたんじゃろ。」
長は折れた剣をゆっくり構える。
そして、低く唸った。
「グルル……。」
その姿は獣というより、一人の戦士だった。
ベスも静かに剣を構える。
互いに動かない。
風だけが二人の間を吹き抜ける。
「ベス!」
レオンが叫ぶ。
「そいつは俺たちが止める!」
「いや。」
ベスは小さく首を振る。
視線は長から離さない。
「これは俺がやる。」
ガルドはその横顔を見て、小さく頷いた。
「任せる。」
次の瞬間。
長が地面を蹴る。
同時にベスも飛び出した。
剣と剣。
獣と人。
二つの刃が、激しい火花を散らした。




