表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バル  作者: 隣の猫
PR
159/417

カイラム



少女の叫びが村へ響く。


「お父さん!」


「お母さん!」


ゆっくりと歩いてくる二人の壊人。


服はぼろぼろ。


その姿には、まだ父と母だった頃の面影が残っていた。


リシアは少女を強く抱き寄せる。


「見ちゃだめ。」


少女は首を振る。


「やだ!」


「お父さん!」


「お母さん!」


必死に手を伸ばす。


しかし二人は何の反応も示さない。


濁った瞳のまま、ゆっくりと近付いてくる。




「来るぞ。」


ガルドの低い声。


二人は同時に飛び掛かった。


「散開!」


灰鷹が一斉に動く。


レオンが父親だった壊人を受け止める。


「ぐっ!」


想像以上の怪力だった。


大剣が軋む。


アイラの矢が父親の肩を射抜く。


それでも止まらない。


「痛みを感じていない!」




母親だった壊人は少女へ一直線に向かう。


腕を伸ばす。


抱き締めようとしているようにも見えた。


だが、その爪は少女の喉元を狙っていた。


「危ない!」


リシアが少女を抱えて飛び退く。


その瞬間。


ベスが地面を蹴った。


「……ごめん。」


一閃。


母親だった壊人は静かに崩れ落ちる。


続けて父親だった壊人が咆哮を上げる。


レオンが押し返し、ベスへ叫ぶ。


「ベス!」


ベスは父親の顔を見る。


一瞬だけ迷う。


だが、その迷いを振り切るように剣を振るった。


「安らかに。」


銀の軌跡が走る。


父親だった壊人も静かに地へ伏した。




村に静寂が戻る。


少女は二人のもとへ駆け寄った。


父親の手を握る。


母親の頬へ触れる。


涙が止まらない。


「お父さん……。」


「お母さん……。」


その時だった。


父親の指先が、小さく動く。


少女は目を見開いた。


「……え?」


父親はゆっくりと目を開く。


濁っていた瞳が、一瞬だけ優しい光を取り戻した。


震える手で少女の頭を撫でる。


「……生きるんだ。」


掠れた声だった。


母親も静かに目を開く。


涙を浮かべながら微笑む。


「たくさん笑って……。」


「優しい子のままでいて。」


少女は何度も首を振る。


「やだ!」


「一緒に帰ろう!」


「お願い!」


母親は静かに首を横へ振る。


「もう……帰れないの。」


父親はベスを見つめた。


「お願い……します。」


「この子を……。」


ベスは真っ直ぐ頷く。


「必ず。」


「命に代えても守ります。」


父親は安心したように笑った。


母親は最後にもう一度だけ娘の頬へ触れる。


「大好きよ。」


その一言を最後に。


二人は静かに息を引き取った。




少女は両親へ抱きつき、声を上げて泣いた。


リシアはその小さな背中を優しく抱きしめる。


灰鷹の誰も言葉を発しなかった。


しばらくして。


少女は涙を拭き、ゆっくり立ち上がる。


家を一度だけ振り返り、小さく頭を下げた。


「……行ってきます。」


返事はない。


だが、乾いた風が村を吹き抜ける。


まるで二人が、最後に娘の背中を押してくれたようだった。


ベスは少女へ手を差し伸べる。


少女は少しだけ迷い、その手を握る。


小さな温もりだった。


こうして灰鷹は新たな仲間を迎え、壊れた村をあとにする。





















少女の新しい人生は、この一歩から始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ