表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バル  作者: 隣の猫
PR
157/424

ベリアス



夜明け。


赤い朝日が灼熱の大地を照らし始める。


ベスは静かに振り返った。


岩礁へ乗り上げたグリムファング。


船体は大きく傷付きながらも、静かに海へ浮かんでいる。


ベスは船体へ手を添えた。


「待っててくれ。」


「必ず迎えに来る。」


黒い帆が潮風に揺れる。


それはまるで、小さく頷いたようだった。




「出発する。」


ガルドの一言で灰鷹は歩き始める。


乾いた熱風。


赤茶けた岩肌。


ひび割れた大地。


照りつける太陽。


海賊たちから聞いていた景色が、そのまま目の前に広がっていた。


だが、実際に歩く灼熱の大地は、想像していた以上に静かだった。


静かすぎた。




数時間後。


先頭を歩いていた団員が突然叫ぶ。


「人です!」


全員が駆け寄る。


砂の上に、一人の男が倒れていた。


服は破れ、全身には無数の傷。


息も絶え絶えだった。


リシアはすぐに膝をつく。


「大丈夫です!」


治癒魔法の光が男を包む。


男はゆっくりと目を開けた。


「……まだ、生きているのか。」


掠れた声だった。


ベスは男の隣へ膝をつく。


「何があった。」


男は震える指をゆっくり前へ向ける。


陽炎の向こう。


崩れた村がぼんやりと見えていた。


「あそこには……。」


「壊人が……。」


ベスは聞き返す。


「壊人?」


男は苦しそうに頷く。


「あいつらは……。」


「もう人じゃない……。」


「俺たちは……。」


「壊人って……呼んでる……。」


その一言を聞き、誰も言葉を返せなかった。


その名前には、諦めと絶望が滲んでいた。




その時だった。


男の身体が大きく震える。


「……っ!」


右腕の皮膚が黒く染まり始める。


筋肉が膨れ上がる。


鋭い爪が伸びる。


リシアの表情が変わる。


「そんな……!」


男は自分の腕を見つめ、小さく笑った。


「来たか……。」


「結局……。」


「俺も……。」


リシアは必死に治癒魔法を重ねる。


「お願い!」


「止まって!」


しかし、何も変わらない。


男は涙を流しながらベスの腕を掴んだ。


「頼む……。」


「壊人には……。」


「なりたくない……。」


震える声で、最後の願いを口にする。


「殺してくれ……。」


ベスは目を閉じた。


海賊たちの最期が脳裏をよぎる。


助けられなかった命。


また同じ現実が繰り返されようとしている。


「ガァァァァァッ!!」


男の瞳から理性が消えた。


壊人となった男が、目の前のリシアへ襲い掛かる。


「リシア!」


ベスは迷わず剣を抜いた。


一歩踏み込む。


「……すまない。」


一閃。


静かな剣筋だった。


壊人は崩れ落ちる。


やがて身体から力が抜け、人の姿へ戻っていく。


男は薄く目を開けた。


苦しみは、もう消えていた。


「……ありがとう。」


その一言を最後に、静かに息を引き取る。




誰も口を開かなかった。


リシアは震える手で男の瞼を閉じる。


レオンが小さく呟く。


「壊人……か。」


アイラも静かに頷く。


「この大陸の人たちは……。」


「そう呼んでいたんですね。」


ガルドは男の亡骸を見つめたまま言う。


「覚えておけ。」


「これから相対するのは壊人だ。」


ベスは男の剣を胸の上へそっと置いた。


「忘れない。」


「あなたが最後まで、人であろうとしたことを。」


乾いた風が吹き抜ける。


灰鷹は静かに歩き出す。


壊れた村へ。























そこには、この大陸の絶望が待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ