ミンタウル
ギャアアアアアッ!!
甲高い鳴き声が大海原へ響き渡る。
黒い影が空を埋め尽くしていた。
飛行型魔物。
その数は数十ではない。
百近い群れが、グリムファング目掛けて一直線に迫ってくる。
「総員、戦闘準備!」
ガルドの声が甲板へ響いた。
灰鷹の団員たちが一斉に持ち場へ走る。
弓を構える者。
ロープを握る者。
帆を調整する者。
もう誰も慌てなかった。
七日間の航海で、グリムファングは灰鷹の船になっていた。
「ベス!」
ガルドが叫ぶ。
「舵を切れ!」
「敵の群れへ真正面から突っ込むな!」
「はい!」
ベスは舵輪を強く握る。
船首が大きく右へ旋回する。
風を受けた黒い帆が大きく膨らみ、グリムファングは波を切り裂く。
「右舷!」
「来ます!」
団員の声と同時に、飛行型魔物が急降下した。
ギャアアッ!!
鋭い爪が甲板を掠める。
レオンが大剣を振るう。
「邪魔だぁぁ!」
一体を叩き落とす。
しかし次々と襲い掛かってくる。
「数が多い!」
リシアは傷を負った団員へ駆け寄る。
「動かないで!」
「すぐ治します!」
アイラは空を見上げながら叫ぶ。
「群れの中心です!」
「あそこを崩せば散ります!」
その時だった。
レオンの視線が船の側面へ向く。
黒い鉄の筒。
大砲。
ニヤリと笑う。
「団長!」
「派手にいきます!」
ガルドは短く頷いた。
「撃て。」
「よっしゃあ!!」
団員たちも慣れた手つきで砲弾を運ぶ。
火薬。
砲弾。
装填。
「準備完了!」
アイラが叫ぶ。
「三秒後!」
「三!」
「二!」
「一!」
「今です!」
レオンは導火線へ火を付けた。
ドォォォォォン!!
轟音が海を震わせる。
砲弾は群れの中心へ飛び込んだ。
次の瞬間。
ドガァァァン!!
爆音と共に数体の魔物が吹き飛ぶ。
群れが大きく乱れた。
「当たった!」
団員たちから歓声が上がる。
レオンは拳を突き上げる。
「最高だ!」
しかし。
灰猫がマストの上で耳を伏せた。
「……まだじゃ。」
その瞬間だった。
海が唸る。
ゴォォォォ……
船体が大きく揺れる。
ベスは舵輪へ力を込めた。
「何だ!?」
アイラが海図を押さえる。
「潮の流れが変わっています!」
ガルドが海面を見る。
渦だ。
しかも巨大。
魔物の群れへ気を取られている間に、グリムファングは強烈な潮流へ飲み込まれていた。
「左へ切れ!」
ガルドが叫ぶ。
ベスは全力で舵を回す。
「駄目です!」
「舵が利かない!」
船が横へ流されていく。
団員たちがロープを締める。
帆を畳む。
それでも止まらない。
灰猫が珍しく立ち上がった。
その目は遥か前方を見据えている。
「……まずい。」
ガルドは猫を見る。
猫はそれ以上何も言わなかった。
ただ前だけを見つめている。
その視線の先。
霞の向こうに、無数の黒い岩影が姿を現した。
「岩礁……!」
アイラの顔から血の気が引く。
グリムファングは止まらない。
潮流は容赦なく船を押し流していく。
ベスは歯を食いしばった。
「止まれぇぇぇ!!」
だが――
自然は、人の力など意にも介さなかった。




