アルキバ
出航から七日。
グリムファングは南の海を順調に進んでいた。
操船にもすっかり慣れた灰鷹の団員たちは、それぞれの持ち場を自然とこなしている。
見張り台では団員が水平線を見渡し、
甲板では数人が帆を調整する。
レオンはというと――
「なぁ。」
「大砲、もう一回撃たねぇ?」
団員の一人が苦笑した。
「何もいませんよ。」
「だから撃ちたいんだよ!」
「駄目です。」
アイラが即答する。
「砲弾にも限りがあります。」
レオンは肩を落とした。
「ちぇっ。」
その様子を見て、甲板には小さな笑いが広がる。
ベスは船首に立ち、潮風を胸いっぱいに吸い込んだ。
「気持ちいいな。」
リシアも隣へ並ぶ。
「海って、不思議ですね。」
「ずっと見ていても飽きません。」
ベスは頷く。
「こういう旅も悪くない。」
その言葉に、ガルドが小さく笑った。
「気を抜くな。」
「海は機嫌が変わるのも早い。」
「はい。」
ベスが返事をした、その時だった。
見張り台から鋭い声が飛ぶ。
「前方!」
「陸です!」
全員が一斉に船首へ集まる。
遥か彼方。
水平線の向こうに、大きな影が浮かんでいた。
「あれが……。」
ベスは目を細める。
最初は黒い雲だと思った。
しかし違う。
それは、大地だった。
近付くにつれ、その異様さが見えてくる。
赤茶けた大地。
ひび割れた断崖。
草木はほとんど見当たらない。
熱気が海の上まで流れ込み、頬を焼く。
「暑い……。」
リシアが額の汗を拭う。
アイラは海図と見比べながら呟く。
「間違いありません。」
「南の大陸です。」
その瞬間。
空の彼方で、大きな影が横切った。
翼を持つ巨大な魔物。
一羽ではない。
何十羽もの群れが、上空を旋回している。
レオンが思わず口笛を吹く。
「歓迎してくれてるってわけじゃなさそうだな。」
誰も笑わなかった。
その時だった。
ガルドの頭の上で眠っていた灰猫が、ゆっくりと目を開く。
いつもの気だるそうな表情はない。
真っ直ぐ南の大陸を見つめている。
「……始まるか。」
小さな呟き。
ガルドは黙って前を見据えた。
その横顔には、どこか覚悟の色があった。
ベスは左腕のフェンリルへそっと触れる。
微かに鼓動が返ってくる。
まるで、この大陸へ反応しているかのようだった。
熱風が黒い帆を揺らす。
グリムファングは速度を落とさない。
ゆっくりと。
確実に。
真実によって壊れた世界へ近付いていく。
その大地では、まだ誰も知らない絶望が――
灰鷹を待ち受けていた。




