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バル  作者: 隣の猫
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151/410

リヴィアス



翌朝。


港には爽やかな潮風が吹いていた。


修理を終えたグリムファングは、静かに波へ揺れている。


船大工の老人が大きく手を振った。


「よし!」


「出してやるぞ!」


港の船乗りたちが手際よく綱を解き、帆を張る。


グリムファングはゆっくりと港を離れ始めた。


ベスは少しずつ遠ざかる街を見つめる。


「行こう。」


灰鷹の新たな旅が始まる。




港を抜け、外海へ出る。


船乗りの一人が舵輪から手を離した。


「ここから先は、お前たちだ。」


ベスは目を丸くする。


「え?」


レオンも固まる。


「え?」


船乗りは豪快に笑った。


「船は渡した。」


「だが操船は教える約束までしてねぇ。」


「ここからは自分たちで覚えな。」


そう言い残すと、船乗りたちは小舟へ乗り換え港へ戻っていった。


「頑張れよー!」


「沈めるなよー!」


笑い声だけが海へ響く。


残されたのは灰鷹だけだった。




甲板では灰鷹の団員たちも慌ただしく動き始める。


帆を見上げる者。


荷を固定する者。


見張り台へ登る者。


皆、船旅の経験はあっても、自分たちだけで操船するのは初めてだった。


ベスは舵輪を見つめる。


「……どうする?」


ガルドは短く答えた。


「まずは動かして覚えろ。」


「分からなければ考えろ。」


「考えても分からなければ聞け。」


「それでも分からなければ失敗しろ。」


「失敗すれば覚える。」


ベスは苦笑した。


「団長らしいですね。」




その時だった。


レオンが一本の太いロープを見つめる。


「……これ。」


「何のロープだ?」


団員の一人が慌てて振り向く。


「待て!」


「それはまだ──」


グイッ。


レオンが思い切り引っ張った。


バサァァァッ!!


巨大な帆が一気に開く。


突風を受けたグリムファングが大きく傾いた。


「うわぁぁぁ!」


「荷物が!」


「反対側を引け!」


団員たちが一斉に走り回る。


ロープを押さえる者。


帆を畳み直す者。


甲板はあっという間に大騒ぎになった。


アイラは額へ手を当てる。


「だから確認してから触ってください!」


レオンは目を輝かせる。


「おぉ!」


「これ帆だったのか!」


「面白ぇ!」


ガルドは深いため息をつく。


「……子どもか。」


その頭の上で灰猫がぼそりと呟いた。


「子どもじゃ。」


思わず甲板に笑いが広がる。




騒ぎが落ち着くと、灰猫が片目を開けた。


「ベス。」


「舵を少し右じゃ。」


ベスは慎重に舵を回す。


船首がゆっくり風を受ける。


「レオン。」


「今度は左のロープを少しだけ引け。」


「少しだけだからな!」


「分かってる!」


レオンは今度こそ慎重に引く。


帆が綺麗に風を受け、大きく膨らんだ。


アイラは海図と進路を見比べる。


「そのままです!」


「真っすぐ進んでいます!」


リシアも嬉しそうに笑った。


「本当に……。」


「私たちだけで動かしてるんですね。」


ベスは舵輪をしっかり握る。


「まだぎこちないけど……。」


「何とかなる気がしてきた。」


追い風が黒い帆を大きく膨らませる。


グリムファングは力強く海原を進み始めた。


その船はもう海賊船ではない
























新たな相棒となったグリムファングは、仲間たちの笑い声を乗せながら、南の大陸へ向かって走り続けるのだった。

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