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バル  作者: 隣の猫
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アストリア



翌朝。


港には朝日が差し込み、穏やかな潮風が吹いていた。


修理を終えたグリムファングは、新たな帆を受け、静かに海へ揺れている。


傷跡は残っている。


だが、その一つ一つが、この船の歩んできた道を物語っていた。


船大工たちは最後の点検を終え、満足そうに頷く。


「これでいつでも出航できる。」


老人の一言に、港の空気が引き締まった。


レオンは荷物を担ぎ上げる。


「よし!」


「いよいよ海の旅だ!」


アイラは航海日誌を抱え、最後に地図を見直している。


リシアは薬箱を丁寧に船へ運び込んだ。


ベスもグリムファングへ歩き出す。


その時だった。


ガルドが船へ向かって歩き始める。


その頭の上には、いつものように灰猫が乗っていた。


ベスは思わず笑う。


「猫も来るの?」


灰猫は片目だけ開ける。


「行く。」


あまりにも当然の返事だった。


レオンが吹き出す。


「普通について来る気なんだな。」


アイラも苦笑する。


「この街へ残るものだと思っていました。」


灰猫は欠伸を一つした。


「少しの間じゃ。」


ベスは首を傾げる。


「少しの間?」


「……まだ、お主らには儂がおらねばならん。」


「どうして?」


ベスが尋ねる。


灰猫は少しだけ黙った。


「それは――」


言いかけて止まる。


しばらく港に潮風だけが流れた。


やがて猫は鼻を鳴らす。


「……面倒じゃ。」


レオンが苦笑する。


「またそれか。」


リシアも思わず笑みをこぼした。


「最後まで教えてくれないんですね。」


その時。


ガルドは静かに目だけを上へ向ける。


頭の上の灰猫は、その視線に気付いたように尻尾を一度だけ揺らした。


言葉はない。


だが、その仕草だけで十分だった。


ガルドは小さく息を吐く。


「……そうか。」


それ以上は何も聞かなかった。


猫も何も語らない。


ベスは不思議そうに二人を見る。


「団長?」


ガルドは前を向いたまま答えた。


「気にするな。」


「今は、それでいい。」


その横顔はどこか納得したようにも見えた。


しかし、その理由を語ることはなかった。


港では最後の係留索が外される。


船大工の老人が大きく手を振った。


「グリムファング!」


「今度は希望を運んでこい!」


港に集まった人々も、一斉に手を振る。


ベスは船へ足を踏み入れた。


ガルド。


レオン。


アイラ。


リシア。


そして、ガルドの頭の上で丸くなる灰猫。


全員が揃う。


グリムファングはゆっくりと港を離れ始めた。


青い海へ、新たな航跡を刻みながら。


灰鷹の新たな旅が――

























静かに始まった。

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