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バル  作者: 隣の猫
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セルディア



翌朝。


港には、朝早くから金槌の音が響いていた。


カン。


カン。


カン――。


傷だらけだったグリムファングは、多くの船大工たちの手によって少しずつ命を取り戻していた。


折れたマストは新しい木材へ替えられ、裂けた帆も一枚ずつ縫い直されていく。


ベスは桟橋に立ち、その光景を静かに見つめていた。


「立派な船になるな。」


隣へガルドが並ぶ。


ベスは小さく頷いた。


「……みんなのおかげです。」


「違う。」


ガルドは首を横へ振る。


「あの船は、海賊たちが命を懸けて守った。」


「町の者は、その想いを受け継いでいるだけだ。」


ベスは改めてグリムファングを見上げた。


黒い船体には、まだ幾つもの傷跡が残っている。


それでも、不思議とその傷が誇りのようにも見えた。




「おーい!」


レオンが大きく手を振る。


「荷物、全部積み終わったぞ!」


桟橋には食料、水樽、予備の武器、ロープなどが並んでいた。


アイラは航海日誌を読み込みながら地図へ印を付けている。


「第四の大陸まで一直線には行けません。」


「潮流を避けながら進めば、七日ほどでしょう。」


リシアは薬草や包帯を丁寧に箱へ詰めていた。


「これだけあれば、しばらくは大丈夫ですね。」


その様子を見ていた船大工の老人が笑う。


「不足があったら戻ってこい。」


「帰る場所くらいは残しといてやる。」


ベスは深く頭を下げた。


「ありがとうございます。」




鍛冶屋の主人も港へ姿を現す。


ガルドの腰にある新しい剣を見て、満足そうに頷いた。


「馴染んできたか。」


「ああ。」


「悪くない。」


短いやり取り。


それだけで互いに十分だった


その時。


ガルドの頭の上で丸くなっていた灰猫が、小さく欠伸をする。


「まだ出ぬのか。」


レオンが笑う。


「珍しいな。」


「お前が急かすなんて。」


「待つのは面倒じゃ。」


「早く乗るぞ。」


アイラが思わず吹き出す。


「猫に急かされる旅なんて初めてですね。」


ガルドは呆れたようにため息をつく。


「……好きにしろ。」


猫は満足そうに目を細めた。




夕暮れ。


修理を終えたグリムファングが、港へ堂々と浮かんでいた。


傷跡は残っている。


だが、それは隠されることなく磨き上げられている。


船大工の老人は船体を軽く叩き、笑った。


「これでいい。」


「傷は消さん。」


「この船が越えてきた戦いまで消えちまうからな。」


ベスはゆっくりと船へ手を置く。


冷たい木の感触。


その奥には、託された命の重みが確かに残っていた。


明日、この船は海へ出る。


希望を乗せて。


























そして灰鷹は、誰も知らない灼熱の第四の大陸へ向かう。

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