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バル  作者: 隣の猫
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レイノス



港へ、静かな風が吹いていた。


変異した海賊たちは、すべて眠りについた。


誰一人として助かる者はいなかった。


港町の人々も兵士たちも、静かに頭を垂れる。


リシアは亡骸へ一枚ずつ布を掛け、祈りを捧げていた。


「どうか……安らかに。」


アイラも弓を置き、静かに目を閉じる。


レオンは帽子を取り、小さく息を吐いた。


「……最期くらいは、化け物じゃなく、人として送ってやりてぇな。」


その言葉に、港にいた誰もが黙って頷いた。


もう彼らを化け物として見る者はいない。


そこにいたのは、故郷へ帰れなかった人間たちだけだった。


その時。


「……ベス。」


かすれた声が響く。


バルガだった。


壁へ身体を預けながらも、まだ意識を保っている。


ベスはすぐに駆け寄った。


「無理をするな。」


バルガは弱々しく笑う。


「船長ってのはな。」


「最後まで立ってるもんだ。」


そう言うと、懐から古びた革表紙の本を取り出した。


「航海日誌だ。」


「潮の流れ。」


「危険な岩礁。」


「第四の大陸までの航路。」


「全部……ここへ書いてある。」


ベスは両手で受け取る。


その重みは、一冊の本とは思えなかった。


続いてバルガは、黒く錆びた鍵を差し出す。


「グリムファングの鍵だ。」


「船も……。」


「鍵も……。」


「全部、お前たちへ託す。」


ベスは静かに受け取った。


「必ず、この船で第四の大陸へ行く。」


その言葉に、バルガは安心したように目を細める。


港へ停泊する黒い船――グリムファング。


傷だらけの船体を見上げ、一人の老人が近付いてきた。


港一番の船大工だった。


老人は船体を叩き、耳を当てる。


何度か頷いたあと、小さく笑った。


「……まだ生きとる。」


周囲の船大工たちも船へ集まる。


「骨組みは丈夫だ。」


「帆は張り替えりゃいい。」


「船底も修理できる。」


「少し時間をくれ。」


「必ず、海へ返してやる。」


その言葉に、バルガは静かに頭を下げた。


「……ありがとう。」


老人も深く頷く。


「安心せい。」


「今度は人を救う船として送り出してやる。」


ベスは港に並ぶ仲間たちを見る。


ガルド。


レオン。


アイラ。


リシア。


そして、ガルドの頭で丸くなる灰猫。


ガルドが短く言う。


「決めろ。」


ベスは迷わなかった。


「行きます。」


「第四の大陸へ。」


「まだ助けを待つ人がいるなら。」


「俺たち灰鷹が助けに行く。」


その決意に、誰一人異論はなかった。


ガルドは静かに頷く。


レオンは大剣を肩へ担ぎ、笑う。


「今度は海の旅か。」


アイラも微笑む。


「新しい旅の始まりですね。」


リシアは胸の前で手を組み、小さく祈った。


「どうか……もうこれ以上、悲しみが増えませんように。」


その時、ガルドの頭の上から灰猫が欠伸をする。


「……面倒な旅になるのう。」


レオンが苦笑する。


「それでも降りる気はないんだな。」


「歩く方が面倒じゃ。」


ガルドは小さくため息をついた。


「好きにしろ。」


夕日に照らされたグリムファングは、静かに港へ揺れていた。


絶望を乗せて辿り着いたその船は――























今、新たな希望を乗せるため、生まれ変わろうとしていた。

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