ミレシア
カン――!
カン――!
カン――!
警鐘が街中へ鳴り響く。
宿の空気が一変した。
レオンは椅子を跳ね飛ばすように立ち上がる。
「何事だ!」
アイラもすぐに弓を背負い直す。
リシアは窓際へ駆け寄り、港の方角を見つめた。
「港です……!」
ベスも立ち上がる。
ガルドは慌てることなく、新しい剣を腰へ差した。
その頭の上では、灰猫がゆっくりと目を開く。
「……朝から騒がしいのう。」
「寝ぼけてる場合か。」
レオンが呆れる。
「儂はいつでも起きておる。」
「絶対寝てただろ。」
そんなやり取りを遮るように、宿の扉が勢いよく開いた。
「ガルド殿!」
兵士が息を切らして飛び込んでくる。
額には大粒の汗が浮かんでいた。
「港までお越しください!」
ガルドは短く尋ねる。
「何があった。」
兵士は息を整えながら答えた。
「船が一隻、漂着しました!」
「海賊旗を掲げています!」
その場の空気が張り詰める。
レオンが大剣の柄を握る。
「海賊か。」
ベスもフェンリルへ手を添えた。
「行こう。」
灰鷹は宿を飛び出す。
街の人々も港の方角を見つめ、不安げな表情を浮かべていた。
店主たちは急いで店じまいを始め、子どもたちは親に手を引かれて家へ戻っていく。
港へ続く道は、野次馬と兵士で埋め尽くされていた。
やがて海が見えてくる。
潮風が頬を打つ。
その先には、一隻の大型船。
黒い海賊旗。
裂けた帆。
船体には無数の傷跡。
幾度もの激戦をくぐり抜けてきたことが、一目で分かった。
港の兵士たちは盾を構え、弓兵が船へ狙いを定めている。
いつでも矢を放てる態勢だった。
しかし――
「……おかしい。」
アイラが小さく呟く。
誰も武器を構えていない。
船の甲板には男たちが倒れ込み、水を求めるように身を寄せ合っている。
痩せ細った身体。
裂けた衣服。
その姿は、海賊というより生き延びることだけで精一杯の難民だった。
ガルドは静かに一歩前へ出る。
「誰が船長だ。」
その声に応えるように、甲板の奥から一人の男が姿を現した。
日に焼けた顔。
長い髭。
肩には深い斬り傷。
だが、その目には戦意がなかった。
男はよろめきながら船縁まで歩く。
ガシャン――
手にしていた剣を、自ら海へ投げ捨てた。
港にいた全員が息を呑む。
男は両膝をつき、震える声で叫ぶ。
「頼む……。」
「俺たちを……助けてくれ。」
その言葉に、誰もすぐには動けなかった。
海賊が助けを求める。
その異様な光景だけが、港に重い静寂を落としていた。




