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バル  作者: 隣の猫
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アルティス



街へ戻った灰鷹を迎えたのは、いつもと変わらぬ喧騒だった。


市場には威勢のいい掛け声が響き、子どもたちが石畳を駆け回る。


そんな景色を見ながら、ガルドは小さく息を吐いた。


「帰ってきたな。」


ベスも静かに頷く。


「ああ。」


その時だった。


ガンッ!


ガンッ!


聞き慣れた鉄を打つ音が風に乗って届く。


レオンが笑う。


「親父の店だ。」


ガルドも自然と足を止めた。


鍛冶屋。


二十年前から変わらぬ看板。


黒く煤けた煙突。


熱気を吐き出す炉。


ガルドはゆっくりと扉を押し開けた。


カラン――


鈴の音が鳴る。


「……おう。」


炉の前に立っていた鍛冶屋の主人が振り返る。


その目がガルドを捉えた瞬間。


「……生きてたか。」


短い一言。


ガルドは苦笑した。


「簡単には死なん。」


主人は鼻を鳴らす。


「だろうな。」


それ以上、言葉はいらなかった。


主人は店の奥へ消えていく。


しばらくして、一振りの剣を抱えて戻ってきた。


鞘は黒。


鍔には余計な装飾はない。


ただ実戦だけを考えて打たれた長剣だった。


主人はガルドへ差し出す。


「持っていけ。」


ガルドは首を傾げた。


「俺は頼んでない。」


「頼まれてねぇ。」


主人はぶっきらぼうに笑う。


「だが、お前の剣はいずれ折れる気がしてな。」


「暇な時に打っといた。」


店の中が静かになる。


ガルドはゆっくりと剣を受け取った。


柄を握る。


すっと抜く。


澄んだ音が店いっぱいに響いた。


一度だけ軽く振る。


空気を裂く音。


その重さ。


その重心。


どれも手に馴染む。


「……いい剣だ。」


主人は鼻で笑う。


「当たり前だ。」


「誰が打ったと思ってる。」


ガルドも小さく笑った。


「そうだったな。」


二十年前。


騎士団で使っていた剣も、この男が打ったものだった。


主人は腕を組む。


「その剣は昔の剣じゃねぇ。」


「これから先を歩くための剣だ。」


その言葉に、ガルドは静かに目を閉じた。


そして腰へ剣を納める。


「……預かる。」


「預けるんじゃねぇ。」


主人は笑う。


「使い潰せ。」


ガルドも笑った。


「ああ。」


その笑顔を見たベスは、胸の奥が少しだけ温かくなる。


折れた剣は、過去を断ち切った。


新しい剣は、未来を切り拓く。


ガルドは店を出る。


その頭の上では、灰猫が丸くなったまま欠伸をしていた。


「……終わったか。」


「長かったのう。」


レオンが吹き出す。


「お前、最後まで降りる気なかったな。」


灰猫は目も開けずに答えた。


「楽じゃからな。」


誰もその言葉を疑わなかった。






















その小さな身体が、今もなおガルドを静かに支え続けていることを知る者は、まだ誰もいなかった。

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