ノクシア
騎士団跡地を後にした灰鷹は、街へ続く石畳の道を歩いていた。
穏やかな風が吹き抜ける。
重苦しかった空気も、少しずつほぐれ始めていた。
その先頭を歩くガルドの頭の上には――
当然のように灰猫が乗っていた。
誰も何も言わない。
いや。
言えなかった。
最初に口を開いたのはレオンだった。
「……団長。」
「あ?」
「それ。」
ガルドは眉をひそめる。
「何だ。」
レオンは頭を指差した。
「猫。」
ガルドは少しだけ視線を上へ向ける。
「乗っとるな。」
「いや、気付いてたんですか!?」
「気付く。」
頭の上で灰猫が大きなあくびをする。
「ふぁぁ……。」
レオンは思わず額を押さえた。
「降ろさないんですか?」
ガルドは淡々と答える。
「勝手に乗った。」
その言葉に、灰猫が片目だけ開く。
「歩くのが面倒じゃ。」
「お前かよ!」
レオンのツッコミが山道へ響いた。
アイラは肩を震わせる。
「猫らしい理由ね。」
リシアも小さく笑う。
「かわいいです。」
「かわいくはない。」
ガルドが即座に否定する。
灰猫も頷いた。
「うむ。」
「かわいくない。」
ベスは思わず吹き出した。
「息ぴったりですね。」
「違う。」
「違う。」
声が重なる。
一瞬の静寂。
レオンが腹を抱えて笑い出した。
「めちゃくちゃ息合ってるじゃないですか!」
ようやくガルドの口元も少しだけ緩む。
「……好きに言え。」
灰猫は満足そうに丸くなる。
「そうする。」
そのままガルドの頭の上で目を閉じた。
まるで、そこが一番居心地のいい場所であるかのように。
誰も不思議には思わなかった。
気まぐれな猫なのだと。
そう思っていた。
ただ一人。
ガルドだけは、ほんのわずかに肩の重さが軽くなっていることに気付いていた。
理由は分からない。
けれど、不思議と胸の奥のざわめきが静まっている。
そのことを口にすることはなかった。
街の門が見えてくる。
長い旅路の終わりが、ようやく近づいていた。




