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バル  作者: 隣の猫
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ヴァルシア



地下神殿は静まり返っていた。


誰も言葉を発しない。


つい先ほどまで見ていた光景が、まだ瞼の裏へ焼き付いていた。


空から降り立つ存在。


そして、その前へ立ちはだかった白銀の巨獣。


ベスは無意識に左腕へ視線を落とす。


フェンリルは、もう静かだった。


まるで役目を終えたように。


「……。」


ガルドは祭壇を見つめたまま動かない。


老人もまた、静かに目を閉じていた。


灰猫は祭壇から飛び降りると、大きく伸びをする。


「ふぁぁ……。」


「歳を取ると、これだけでも疲れるのう。」


レオンが思わず苦笑する。


「喋る猫にも、疲れるとかあるんだな。」


「ある。」


灰猫は即答した。


「猫じゃからな。」


「そこは猫なんだ……。」


アイラが肩の力を抜き、小さく笑う。


張り詰めていた空気が、少しだけ和らいだ。


だが、その空気を破ったのは老人だった。


「……行こう。」


短い一言。


ガルドは静かに頷く。


「ああ。」


一行は地下神殿を後にする。


長い石段を、一歩ずつ登っていく。


誰も急がない。


それぞれが、見た真実を胸の中で整理していた。


やがて。


眩しい陽の光が差し込む。


地下神殿を出た先には、風に晒された石畳が広がっていた。


崩れかけた石壁。


草に覆われた訓練場。


折れた旗柱。


かつて騎士たちが剣を交え、笑い、誓いを立てた場所。


今は静かな廃墟となっている。


ガルドは、その景色を静かに見渡した。


「……変わったな。」


老人は隣へ並ぶ。


「二十年じゃ。」


「変わらぬ方がおかしい。」


ガルドは小さく笑う。


「違いない。」


しばらく二人は黙って景色を眺めていた。


やがて老人が口を開く。


「ここへ戻る気はなかったじゃろう。」


「ああ。」


「戻れんと思っていた。」


ガルドは崩れた建物へ目を向ける。


「俺だけが、生き残った。」


「そう思い続けてきた。」


老人は静かに首を横へ振る。


「だから、お主は十分背負った。」


「もう、その荷は少し降ろしてもよい。」


風が吹く。


草が揺れる。


長い沈黙のあと、ガルドはゆっくりと息を吐いた。


「……難しいな。」


「うむ。」


老人は優しく笑う。


「じゃが、お主は帰ってきた。」


「それだけで十分じゃ。」


その言葉に、ガルドは何も返さなかった。


ただ、ゆっくりと空を見上げる。


青く澄んだ空は、二十年前と変わらずそこにあった。


その様子を少し離れた場所から見守っていたベスは、小さく拳を握る。


ガルドが背負ってきたもの。


その重さを、自分はまだすべて知らない。


だが、一つだけ分かることがある。


今日、ガルドは過去と戦い。


そして、生きて帰ってきた。


灰猫は瓦礫の上へ飛び乗ると、小さく鼻を鳴らした。


「……さて。」


「湿っぽい話は、そのくらいでよい。」


全員が猫を見る。


灰猫は尻尾を揺らしながら歩き出した。


「街へ戻るぞ。」


「腹が減った。」


その一言に、レオンが吹き出す。


「結局、それかよ!」


笑い声が響く。


その笑いは、これまでより少しだけ自然だった。


灰鷹は再び歩き出す。


過去を乗り越えた者たちとして。




















そして、まだ誰も知らない未来へ向かって。

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