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バル  作者: 隣の猫
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ラグニア



地下神殿に静寂が訪れる。


先ほどまで激しくぶつかり合っていた剣戟は消え、耳に届くのは風が石柱を抜ける音だけだった。


ベスはゆっくりとフェンリルを下ろす。


レオンは大剣を地面へ突き立て、大きく息を吐いた。


アイラは張り詰めていた弓を下ろし、リシアは黙ってガルドの傷へ治癒術を施している。


ガルドは折れた剣を静かに見つめていた。


その時だった。


石段の上から、複数の足音が響く。


虚無の使徒たち。


その先頭には、黒い法衣を纏った上位の使徒が立っていた。


男はガルドとベスを見比べる。


そして、小さく笑った。


「……なるほど。」


「人は、まだこのような答えを選ぶか。」


誰にも聞かせるつもりのないような独り言。


男は興味を失ったように背を向ける。


「戻るぞ。」


虚無の使徒たちは無言で従う。


誰一人として振り返らない。


ただ一人を除いて。


クロムだけが、その場に立ち尽くしていた。


仮面の奥から、ガルドを静かに見つめている。


ガルドもまた、その視線を受け止めた。


長い沈黙。


やがてガルドが、小さく呟く。


「……クロム。」


クロムは何も答えない。


ゆっくりと踵を返す。


二、三歩進み――


足を止めた。


振り返ることはない。


低く、冷たい声だけが地下神殿へ残る。


「……こちらへ来なかったことを。」


わずかな間。


「後悔するがいい。」


その一言だけだった。


クロムは再び歩き出す。


黒い外套が闇へ溶け、やがて完全に姿を消した。


ベスは思わずガルドを見る。


「あれは……。」


ガルドは答えない。


折れた剣を握る手に、静かに力を込めるだけだった。


その横へ、老人が歩み寄る。


石畳へ落ちていた折れた刃を拾い上げる。


長い年月を共にした剣を見つめ、小さく頷いた。


そしてガルドへ差し出す。


「……帰ってきたな。」


ガルドは折れた剣を受け取る。


柄を握り締め、ゆっくりと目を閉じた。


「ああ。」


「……ようやくだ。」


その短いやり取りだけで十分だった。


二十年という歳月を知る二人には、それ以上の言葉は要らなかった。


誰も口を開けない。


静かな空気だけが流れる。


その時。

















「……ニャ。」

















灰猫が欠伸を一つした。


ゆっくりと立ち上がり、前足を伸ばして身体をほぐす。


そして面倒くさそうに全員を見回した。


「やれやれ……。」


初めて聞く、人の言葉。


ベスたちは息を呑む。


猫は尻尾を一度だけ揺らすと、祭壇の方へ歩き始めた。


「ついて来るがよい。」


「ようやく、お主らに話す時が来た。」


誰も動けない。


ガルドだけが、小さく微笑んだ。


「……やっぱり、お前だったか。」


灰猫は振り返らない。




















ただ尻尾だけをゆっくりと揺らしながら、封印の祭壇へ歩き続けた。

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