表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バル  作者: 隣の猫
PR
135/417

オルフェス



「来るなァァァッ!!」


ガルドの叫びが地下神殿を震わせた。


灰色の瘴気が爆発するように広がる。


次の瞬間。


ガルドの姿が消えた。


「ベス!」


レオンの声が響く。


キィィン!!


金属が激しくぶつかる音。


ベスは反射的にフェンリルを構えた。


間一髪。


ガルドの剣を受け止める。


だが、その衝撃は受け止めきれない。


「ぐっ……!」


身体ごと弾き飛ばされ、石畳を転がった。


肺から空気が抜ける。


腕が痺れる。


立ち上がるより早く、灰色の影が再び目の前へ迫っていた。


「団長……!」


剣が振り下ろされる。


その一撃を割って入ったのはレオンだった。


「こっちだぁ!!」


大剣が火花を散らす。


レオンは全身で押し返そうとする。


しかし。


ガルドは片手だけで受け止めていた。


「嘘だろ……!」


押し負ける。


レオンの身体が大きく後ろへ弾かれ、壁際まで押し込まれる。


ガルドは追撃する。


だが。


剣先は喉ではなく肩をかすめるだけだった。


レオンは勢いのまま床へ転がる。


「ぐっ……。」




「援護!」


アイラの矢が次々と放たれる。


一本。


二本。


三本。


死角を狙った射撃。


しかしガルドは振り返らない。


剣を振るうたび、矢は弾かれ、石壁へ突き刺さる。


アイラは息を呑んだ。


「全部見えてる……。」




ベスは痛む身体を起こした。


「まだ……終われない。」


フェンリルを握り直す。


ガルドへ飛び込む。


一撃。


二撃。


三撃。


すべて受け流される。


「甘い。」


低い声。


次の瞬間、柄で胸を打たれる。


息が止まる。


膝をついたベスを見下ろし、ガルドは静かに呟いた。


「周りを見ろ……。」


その言葉には、一瞬だけ師としての温もりが宿っていた。


しかし灰色の左目が光る。


再び殺気が膨れ上がる。




「もう……やめてください。」


リシアが前へ出た。


その手には細身の剣。


ベスは目を見開く。


「リシア?」


「下がって。」


リシアは静かに息を整える。


「今だけは、治療師じゃない。」


剣先をゆっくりと下げる。


ガルドが動く。


一閃。


リシアは半歩だけ身体をずらす。


受けない。


流す。


二撃目。


足運びだけでかわす。


三撃目。


刃を滑らせ、力を逃がす。


ガルドの連撃を、紙一重で捌き続けた。


「リシアが……。」


ベスは言葉を失う。


アイラも驚きを隠せない。


「こんなに戦えるなんて……。」


ガルドの右目が揺れる。


「見えているのか……。」


小さな呟き。


リシアは汗を流しながら微笑んだ。


「あなたに教わった人が……いるから。」


だが。


その瞬間。


灰色の左目が強く輝く。


踏み込みが変わる。


速い。


さっきまでとは比べものにならない。


「しまっ――」


細身の剣が高く弾かれる。


無防備になったリシアへ、ガルドの剣が迫る。


「リシア!!」


誰も間に合わない。


その時だった。




















「……ニャ。」





















灰猫が二人の間へ、ふらりと歩いてきた。


まるで散歩の途中のように。


ガルドの剣が止まる。


ほんの一瞬。


右目が揺れた。


猫は欠伸を一つすると、何事もなかったようにその場へ座り込む。


しかし次の瞬間。


「……ァァッ!」


ガルドは頭を押さえ、苦しげに後ろへ飛び退いた。


灰色の瘴気が激しく渦を巻く。


理性と虚無がぶつかり合っている。


ベスは肩で息をしながら立ち上がる。


レオンも剣を支えに身体を起こす。


リシアは落ちた剣を拾い直した。


誰一人、戦う力は残っていない。


それでも。


誰一人、諦めようとはしなかった。


地下神殿に再び静寂が訪れる。


だがそれは、束の間の静けさだった。


灰色の瘴気はさらに濃くなり、ガルドはゆっくりと剣を構え直す。





















その姿は、まるで絶望そのものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ