リューメル
暗い地下通路。
ベスたちは崩れた石壁の前で立ち止まっていた。
「ここが……。」
レオンが瓦礫を見つめる。
「行き止まりか。」
老騎士は首を横に振った。
「いや。」
「二十年前、この先で事故があったとだけ聞いている。」
「その後、この地下は完全に封鎖された。」
ベスは瓦礫へ手を触れる。
冷たい。
だが、その奥から微かに気配を感じる。
「団長。」
思わずその名を呼ぶ。
返事はない。
静寂だけが続く。
その時。
左腕のフェンリルが小さく脈打った。
ドクン。
一度だけ。
まるで、
「まだ先へ進め。」
そう告げるように。
「どいてくれ。」
レオンが大剣を肩へ担ぐ。
「ぶち抜く。」
アイラが苦笑した。
「あなたらしいわね。」
レオンは大剣を振り上げる。
轟音。
瓦礫が砕ける。
何度も。
何度も。
やがて、人ひとりが通れるほどの隙間が開いた。
冷たい風が吹き抜ける。
その奥には、長い年月誰も踏み入れていない通路が続いていた。
老騎士は静かに目を伏せる。
「ガルドは……。」
「この地下から戻ってきた時には、もう昔のガルドではなかった。」
誰も口を開かない。
老人は続ける。
「あの日以来、騎士団を去った。」
「理由は誰にも話さなかった。」
「聞こうとした者もいた。」
「じゃが……誰も聞けんかった。」
その横顔には、今でも癒えない傷が刻まれていた。
ベスは拳を握る。
「なら。」
「俺が聞きます。」
「団長自身の口から。」
その言葉に老騎士はゆっくりと頷いた。
「それができるなら……。」
「きっと、お前だけじゃろう。」
「ニャア。」
灰猫が通路の奥で一度だけ鳴く。
琥珀色の瞳は、暗闇のさらに先を見つめていた。
ベスは剣を抜く。
「行こう。」
仲間たちも静かに武器を構える。
二十年前の悲劇が眠る場所。
その先で待つのは、師との再会か。
それとも、もう戻れない誰かとの戦いか。
誰にも分からない。
ただ一つ確かなことがある。
ベスはもう、あの日の少年ではなかった。
守るために強くなった。
真実を受け止める資格を得るために歩き続けてきた。
そして今。
二十年越しの運命が、静かに動き始める。




