アルシオン
地下神殿。
ガルドたちは黒い影を払いながら出口へ向かっていた。
本体は動かない。
祭壇の中央で静かに立ち尽くしている。
それでも影は際限なく生まれ続け、五人の退路を塞いでいく。
「急げ!」
ガルドが仲間を先へ押し出す。
赤髪の騎士と女性剣士、槍使いは必死に階段へ向かって走った。
クロムもあと一歩で追いつく。
その瞬間だった。
「クロム。」
低い声が響く。
足が止まる。
ガルドの声ではない。
祭壇から聞こえた声だった。
「振り向くな!」
ガルドが叫ぶ。
しかしクロムの足は動かない。
声が聞こえる。
頭ではなく、心へ直接。
「知りたいのだろう。」
「世界の始まりを。」
「神とは何かを。」
クロムは拳を握る。
「……黙れ。」
「知らなくていい。」
そう言い聞かせる。
だが心の奥では、別の声が囁いていた。
知りたい。
黒い人影は静かに告げる。
「知識は力だ。」
「だが。」
「資格なき者が真実へ触れれば、その心は砕け散る。」
クロムは眉をひそめる。
「資格……?」
「資格とは何だ。」
黒い人影は答えない。
しばらく沈黙が流れる。
やがて、ゆっくりと口を開いた。
「耐えることだ。」
「絶望に。」
「孤独に。」
「世界そのものに。」
「資格なき者は、真実ではなく絶望だけを見る。」
ガルドはクロムの腕を掴んだ。
「行くぞ!」
「こんなものの話を聞くな!」
クロムは我に返る。
「あ……ああ。」
二人は駆け出す。
だが。
祭壇から最後の一言だけが響いた。
「お前は。」
「いずれ、自ら真実を求めて戻ってくる。」
出口は目前だった。
その時。
地下神殿全体が激しく揺れる。
天井から無数の岩が崩れ落ちる。
「危ない!」
女性剣士の叫び。
ガルドは迷わず飛び出し、仲間を突き飛ばした。
轟音。
巨大な岩が通路を塞ぐ。
土煙が舞い上がる。
「隊長!」
「ガルド!」
仲間たちの叫びが響く。
煙が晴れる。
ガルドは立っていた。
だが、その向こう側。
祭壇の前には、クロムが一人取り残されていた。
崩れた岩壁が二人を隔てる。
「クロム!」
ガルドは岩へ剣を叩きつける。
びくともしない。
クロムは静かに振り返る。
その視線の先には、祭壇に佇む黒い人影。
本体は一歩も動いていない。
それでも、その距離はもう数歩しかなかった。
黒い人影は静かに右手を差し出す。
「選べ。」
「無知のまま生きるか。」
「資格なきまま、真実へ触れるか。」
地下神殿は再び大きく揺れた。
ガルドは必死に叫ぶ。
「クロム!!」
しかし、その声は轟音にかき消される。
クロムは差し出された黒い手を見つめた。
その瞳には、恐怖だけではない。
知りたいという、人として最も危うい願いが宿り始めていた。




