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バル  作者: 隣の猫
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ルミネス



地下神殿は静まり返っていた。


黒い人影は祭壇の中央に立ったまま、微動だにしない。


ただそこに存在しているだけ。


それだけで空間全体を支配していた。


一方で、無数の黒い影だけが床を這い、石柱を伝い、獲物を探すように蠢いている。


「本体は動かない……。」


クロムが小さく呟く。


ガルドは影を斬り払いながら答えた。


「気を抜くな!」


「近付けば近付くほど、影が増えている!」


その言葉どおりだった。


祭壇へ近づこうとするたび、黒い影は数を増し、五人の行く手を阻む。


あと数歩。


その数歩が、どうしても届かない。




「隊長!」


赤髪の騎士の叫び声が響く。


横から伸びた影が女性剣士の足を絡め取る。


「くっ……!」


ガルドは駆け寄り、影を剣で弾き飛ばす。


完全には斬れない。


それでも衝撃で影は離れ、女性剣士は転がるように後退した。


「全員、固まれ!」


五人は円陣を組み、互いの背中を預ける。


誰一人欠けさせない。


それがガルドの戦いだった。




黒い人影が静かに口を開く。


「愚かな選択だ。」


「守ろうとするほど、人は滅ぶ。」


ガルドは睨み返す。


「黙れ。」


「俺たちは誰一人見捨てない。」


その言葉に、黒い人影はわずかに首を傾けた。


「……そうか。」


たったそれだけだった。


しかし、その声は妙に悲しげにも聞こえた。




クロムは祭壇を見つめる。


本体は一歩も動かない。


なのに、近付けない。


その異様な光景から目が離せなかった。


(なぜ動かない。)


(いや……。)


(動けないのか?)


その考えが頭をよぎった瞬間だった。


黒い人影の視線が、まっすぐクロムへ向く。


「気付いたか。」


クロムの身体が強張る。


「……!」


「お前は、他の者とは違う。」


低い声。


だが、不思議と恐怖はなかった。


むしろ心の奥底へ直接語りかけられているようだった。




「知りたくはないか。」


「この世界の始まりを。」


「神が何者なのかを。」


クロムの瞳が揺れる。


誰にも聞こえていない。


その声は、クロムだけへ届いていた。


ガルドは気付かない。


仲間たちも影への対応で精一杯だった。


「……知って、どうなる。」


クロムは小さく呟く。


黒い人影は答える。


「世界を救える。」


その一言だった。




「クロム!」


ガルドの叫び声で我に返る。


影が背後から迫っていた。


クロムは間一髪で剣を振るい、後ろへ飛び退く。


「大丈夫か!」


「あ、ああ……。」


答えながらも、胸の鼓動は収まらない。


あの言葉が頭から離れなかった。


世界を救える。


その響きだけが、何度も心の中で繰り返される。




ガルドは仲間たちを見回した。


「ここは危険すぎる。」


「一度退く!」


全員が頷く。


五人は影を払いながら出口へ向かって走り出した。


祭壇の中央。


黒い人影は最後まで一歩も動かなかった。


ただ静かに、去っていく五人の背中を見つめている。


そして誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。


「選ぶがいい。」


「守る者か。」


「真実を求める者か。」

























その言葉は、クロムの心にだけ静かに刻まれていった。

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