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バル  作者: 隣の猫
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ファルミア



冷たい風が吹き上がる。


ベスたちは石階段を一段ずつ慎重に降りていた。


松明の火だけが、暗い通路を照らしている。


上を見上げても、もう修練場の光は見えなかった。




「静かすぎるな。」


レオンが小さく呟く。


その声でさえ、壁に反響して消えていく。


アイラは壁面へ刻まれた文字を見つめた。


「この文字……。」


「神代文字とも違う。」


「もっと古い。」


老騎士も首を横に振る。


「私も見たことがない。」


「こんな地下施設の存在すら知らされていなかった。」




やがて一行は広い通路へ出る。


床には無数の傷跡。


壁には剣が叩きつけられたような跡が残っていた。


ベスはしゃがみ込み、その傷へ手を触れる。


「これは……。」


老騎士が静かに答える。


「剣の跡だ。」


「しかも、かなり昔の。」


ベスは黙って傷を見つめる。


胸がざわつく。


理由は分からない。


だが、その剣筋にはどこか見覚えがあった。




少し進んだ先。


石壁に一本の剣が突き刺さっていた。


錆び付き、柄は半ば朽ちている。


しかし、その鍔には騎士団の紋章が刻まれていた。


レオンがゆっくりと引き抜く。


「重い……。」


アイラが柄を見つめる。


「名前があります。」


そこには、小さく刻まれていた。


『クロム』


一同が息を呑む。


ベスは目を見開いた。


「クロム……?」


老騎士の表情が強張る。


「馬鹿な……。」


「あいつの剣のはずがない。」


「クロムは二十年前、行方不明になった騎士だ。」


静寂が流れる。


誰も言葉を続けられなかった。




その時。


ベスの左腕が、かすかに熱を帯びた。


「……!」


フェンリル。


未来のベスと共鳴して以来、眠りから覚めたばかりの左腕。


声は聞こえない。


力も流れ込まない。


だが確かに、


“何かが近い”


そう告げるように、一度だけ脈打った。


ベスは左腕を押さえる。


「どうした?」


リシアが心配そうに尋ねる。


ベスはゆっくり首を振る。


「大丈夫。」


「でも……。」


視線は地下の奥へ向いたままだった。




その時だった。


ゴォォ……


遠くから、重い音が響く。


地面がかすかに揺れる。


レオンが大剣を構えた。


「今の音……。」


老騎士は青ざめる。


「地下の最深部だ。」


「まさか、まだ何か動いているのか……。」


ベスは迷わず歩き出す。


「行きます。」


「団長がいる。」


その一言だけだった。


誰も止めなかった。




灰猫が、いつの間にか通路の先へ座っていた。


琥珀色の瞳が、静かにベスを見つめる。


そして一度だけ尻尾を揺らすと、暗闇の奥へ歩き始めた。


まるで最後の道案内をするように。


ベスたちは、その後を追う。


一歩、また一歩と。


地下の最深部へ。


その先で待っているのが、


二十年前の真実か。


それとも、師との再会か。






















まだ誰にも分からなかった。

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