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バル  作者: 隣の猫
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エルフィア



黒い霧が静かに揺れる。


ガルドの目の前に広がるのは、二十年前の景色だった。


秋風が吹く。


紅葉が舞う。


若き日のガルドは、四人の仲間とともに石畳の坂道を歩いていた。


その隣には、一人の青年。


黒髪を短く整えた、鋭い眼差しの騎士。


まだ仮面も黒衣もない。


若き日のクロムだった。




「見えてきた。」


赤髪の騎士が前を指差す。


山の中腹。


巨大な石造りの建物が姿を現す。


旧騎士団修練場。


何百年も前から使われてきた歴史ある修練場であり、騎士たちの誇りでもある場所だった。


しかし今日は違う。


門は閉ざされ、人の気配がない。


風だけが静かに吹き抜けている。




「静かすぎる。」


クロムが低く呟く。


ガルドも同じ違和感を抱いていた。


本来なら訓練の掛け声や剣戟が聞こえるはずだ。


それなのに。


何も聞こえない。


「全員、警戒しろ。」


ガルドの一言で仲間たちの表情が引き締まる。




重い門を押し開ける。


ギギギ……


軋む音だけが修練場へ響いた。


中には誰もいない。


木剣が一本、地面へ転がっている。


訓練用の人形は真っ二つに裂けたまま放置されていた。


「争った跡か……?」


槍使いが辺りを見回す。


女性剣士がしゃがみ込む。


「血はありません。」


「でも、この壊れ方は普通じゃない。」


ガルドは床へ膝をつく。


石畳には、黒い砂のようなものが薄く積もっていた。


指先で触れる。


サラサラと崩れ、風へ溶けて消えた。


「……初めて見る。」


クロムも同じ砂を見つめる。


「嫌な感じがする。」


「ここには長居しない方がいい。」




その時だった。


ゴォン……。


修練場の地下から、鈍い鐘の音が響いた。


全員が顔を上げる。


赤髪の騎士が眉をひそめる。


「地下?」


槍使いが首を傾げる。


「この修練場に地下なんてあったか?」


クロムは静かに答えた。


「ある。」


「封鎖されている旧施設だ。」


「昔の騎士団が使っていたらしい。」


ガルドは驚かない。


団長から事前に聞かされていた。


「今回の任務は、その地下の調査でもある。」


仲間たちの空気が変わる。


単なる魔物討伐ではない。


誰も知らない何かが、この地下に眠っている。




現在。


ガルドは静かに目を閉じる。


「あの時、引き返すべきだった。」


クロムは首を横に振る。


「無理だ。」


「俺も、お前も。」


「騎士だった。」


「助けを求められれば、進むしかない。」


ガルドは苦く笑う。


「そうだな。」


「だから後悔している。」


その言葉には、二十年間抱え続けた重みが滲んでいた。




若き日のガルドは剣へ手を添える。


「行くぞ。」


誰一人、異論はなかった。


クロムも静かに頷く。


「最後尾は俺が見る。」


二人は互いに視線を交わす。


長年背中を預け合ってきた者だけが分かる、小さな合図だった。


その時はまだ。


二人とも知らなかった。


この地下へ足を踏み入れた瞬間から、


親友として歩んできた道が、永遠に二つへ分かれることを。


石階段の奥から、冷たい風が吹き上がる。


若きガルドは、一歩目を踏み出した。






















それが、二十年間消えることのなかった後悔の始まりだった。

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