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バル  作者: 隣の猫
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フォーマルハウト



「道を開けろ!」


ガルドの声が戦場に響く。


その一声だけで灰鷹は動いた。


ボルグが盾を打ち鳴らし、グランベアの注意を引く。


「こっちだ、この化け物!」


装甲獣は怒り狂ったように前脚を振り下ろす。


轟音とともに大地が砕け、土煙が舞い上がる。


「今だ!」


エインの矢が右目を狙う。


装甲には弾かれる。


だが狙いは傷つけることではない。


一瞬だけ、視線を逸らすこと。


「走れ、ベス!」


ガルドの叫びが届く。


ベスは地を蹴った。


低く、獣のように。


だが以前とは違う。


敵だけではなく、仲間の位置を感じながら駆ける。


ボルグの盾が押し返す。


エインの矢が導く。


ガルドの剣が隙を作る。


そのすべてが、一本の道になっていた。


「うおおおおっ!」


ベスは滑り込むように懐へ入る。


グランベアが前脚を振り上げる。


胸の装甲がわずかに開いた。


「そこだ!」


左腕の《獣爪ガントレット・フェンリル》が閃く。


ギィィンッ!


甲高い音が響く。


鋼の爪は装甲の隙間へ深く食い込んだ。


「入った!」


だが、それだけでは終わらない。


グランベアが咆哮を上げ、巨体を振り回す。


ベスの身体が宙へ放り投げられた。


「ベス!」


リシアの叫び。


地面へ叩きつけられ、息が詰まる。


剣も手から離れてしまった。


視界が揺れる。


立ち上がれない。


その時だった。


胸に食い込んだフェンリルの爪が、かすかに蒼白く輝いた。


ほんの一瞬。


誰にも気づかれないほどの光。


グランベアが苦しげに唸る。


「……今の光は?」


エインが目を細める。


ガルドも見逃さなかった。


だが考える暇はない。


「総攻撃!」


ガルドが駆ける。


ボルグが盾で巨体を押さえ込む。


団員たちが一斉に斬りかかる。


胸の隙間へ、ガルドの剣が深々と突き刺さった。


グランベアは大きく身を震わせる。


そして――


轟音とともに崩れ落ちた。


森が静まり返る。


誰もすぐには動けなかった。


やがてボルグが笑い始める。


「勝った……。」


その一言で、張り詰めていた空気が弾けた。


歓声が森中に響く。


灰鷹は勝利した。


しかし、ガルドは歓声の輪には入らなかった。


彼は倒れたベスのそばへ歩み寄る。


「立てるか。」


ベスは歯を食いしばり、ゆっくりと身体を起こした。


全身が痛い。


腕も足も震えている。


「……俺。」


「何もできなかった。」


ガルドは静かに首を振る。


「違う。」


そう言って、グランベアの胸元を指差す。


そこには、フェンリルの爪が残した三本の深い傷が刻まれていた。


「お前が最初の傷をつけた。」


「あの一撃がなければ、俺の剣は届かなかった。」


ベスは傷跡を見つめる。


仲間が繋いでくれた一撃。


そして、自分が繋いだ最後の隙。


初めて、自分が誰かの役に立てた。


その実感が胸を満たす。


「……ありがとう。」


自然と、その言葉が口をついた。


ガルドは少しだけ驚き、すぐに笑った。


「礼なら仲間全員に言え。」


ベスは振り返る。


傷だらけで笑うボルグ。


矢筒を抱えて座り込むエイン。


治療に追われながらも微笑むリシア。


灰鷹のみんながいた。


その光景を見たベスの胸に、小さな温もりが灯る。


復讐だけでは生まれない感情。


まだ名前は分からない。


けれど、それは確かに彼の心を変え始めていた。


そして誰も知らない。


戦いの終わった森の奥。


一本の古い石柱が、フェンリルの光に呼応するように、静かに蒼白く、輝いたことを。


そこには古代文字が刻まれていた、、、。



















『神を裂く牙は、再び目覚める。』

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