表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バル  作者: 隣の猫
PR
117/410

ミンカル



ゴォォォォッ!!


紅蓮角王の咆哮が紅葉の森を震わせる。


黒い霧が辺りへ広がり、木々が次々と枯れ始めた。


「街へ行かせるな!」


ベスが叫ぶ。


灰鷹は一斉に駆け出した。




紅蓮角王が地面を蹴る。


巨体とは思えない速度だった。


一直線にベスへ突進する。


「速い!」


ベスは横へ飛び退く。


巨大な角が地面を抉り、大木を何本も吹き飛ばした。


「今だ!」


レオンが横から大剣を叩き込む。


ガギィン!!


しかし刃は硬い毛皮と筋肉に止められる。


「硬ぇ……!」


次の瞬間。


紅蓮角王が後ろ脚で蹴り上げた。


「ぐあっ!」


レオンの身体が宙を舞う。


「レオン!」


リシアがすぐに駆け寄る。


癒やしの光が傷を包んだ。




「足を止める!」


アイラが叫ぶ。


矢が次々と放たれる。


狙うのは脚。


一本。


二本。


三本。


紅蓮角王は大きく体勢を崩した。


「今!」


ベスが飛び出す。


狙うのは首ではない。


角でもない。


昨日から見続けていた。


黒い霧が最も濃く集まる場所。


胸だった。


「はあぁぁっ!」


剣が胸へ届く。


しかし。


ガキン!!


弾かれた。


「くっ!」


あと一歩届かない。




紅蓮角王が前脚を振り下ろす。


ベスは受け止める。


凄まじい重さ。


膝が地面へ沈む。


(重い……!)


押し潰される。


その時だった。


「ベス!」


レオンが横から体当たりを放つ。


紅蓮角王の身体が僅かに揺れる。


「今です!」


リシアの声。


癒やしの光がベスの身体を包む。


痛みが和らぐ。


アイラの矢が再び飛んだ。


今度は黒い霧が集まる胸元へ。


矢が突き刺さる。


黒い霧が一瞬だけ揺らいだ。


「ベス!」


アイラが叫ぶ。


「そこ!」




ベスの脳裏へ浮かぶ。


ガルドの言葉。


「敵だけを見るな。」


リシアの言葉。


「相手をよく見て。」


未来の自分。


「仲間を信じろ。」


ベスは深く息を吸う。


もう一度踏み込む。


仲間が道を作る。


自分は、その最後の一撃を放つだけ。


「うおおおおおっ!!」


渾身の一閃。


剣はアイラの矢が刺さる場所へ吸い込まれるように走った。


ズバァァァッ!!


胸を覆っていた黒い霧が真っ二つに裂ける。


紅蓮角王が苦しげに天を仰いだ。


ゴォォォォォッ!!


黒い霧が噴き出す。


リシアはすぐに駆け寄る。


「お願い……戻って。」


両手を胸へ当てる。


温かな光が紅蓮角王を包み込む。


黒い霧はゆっくりと消えていった。


やがて。


真っ黒だった角が少しずつ黄金色を取り戻していく。


深紅だった瞳も、本来の穏やかな琥珀色へ戻った。


紅蓮角王は静かにベスたちを見つめる。


敵意はもうない。


大きな頭をゆっくりと下げた。


まるで礼を告げるように。


ベスも静かに剣を納める。


「……助かってよかった。」


紅蓮角王は一度だけ低く鳴くと、紅葉の森の奥へ歩き始める。


その背中を、誰も止めなかった。




静寂が戻る。


だが、その静けさは長く続かなかった。


レオンが拳を強く握る。


「団長を……。」


アイラも唇を噛む。


リシアは俯き、小さく祈りを捧げていた。


ベスはガルドが消えた場所を見つめる。


「もう迷わない。」


その瞳には強い意志が宿っていた。


「必ず迎えに行く。」


風が吹く。


紅葉が舞う。


その時。


森の奥から、重く、それでいて気高い足音が響いた。


コツ……。


コツ……。


誰もが音のする方を振り向く。





















紅葉の帳の向こうで、黄金色の光が静かに揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ