リゲン
試練を終えたベスとリシアは、白狐に導かれ、神殿の最奥へと足を踏み入れた。
そこには巨大な石扉が静かに佇んでいた。
白銀の鎖が幾重にも巻かれ、神聖な光を放っている。
しかし、その半分には黒い亀裂が走り、封印の力は大きく失われていた。
ベスは静かに息を呑む。
「これが……第二の封印。」
白狐はゆっくりと頷く。
「はい。」
「今も私が守り続けている封印です。」
レオンが石扉を見上げる。
「前に聞いた通り、本当に半分だけ壊されてるんだな。」
「何があった?」
白狐は静かに封印へ手を添えた。
「少し前、この封印を破ろうとした者が現れました。」
神殿に静寂が訪れる。
「私は、その者を止めました。」
「ですが……。」
「私が辿り着いた時には、外側の封印はすでに破られていました。」
アイラは悔しそうに唇を噛む。
「間に合わなかったのね……。」
白狐は小さく頷いた。
「ですが、内側の封印だけは守り抜きました。」
「今も私の力で、この封印は保たれています。」
ガルドは静かに封印を見つめる。
「その役目を、お前は一人で背負ってきたのか。」
白狐は穏やかに微笑んだ。
「それが、守護者の使命ですから。」
白狐はベスとリシアへ向き直る。
「ですが。」
「あなた方は試練を乗り越えました。」
「継承者として、この封印に刻まれた記憶へ触れる資格を得ています。」
そう告げると、白狐は両手を石扉へ添えた。
白銀の鎖が淡く輝き始める。
ガチャ……
静かに鎖が解け、石扉がゆっくりと開いた。
眩い光が神殿中へ溢れ出す。
景色が変わる。
果てしない夜空。
無数の星が大地へ降り注いでいた。
それは流れ星ではない。
光をまとった人々だった。
彼らを迎える人々。
歓喜する者。
祈る者。
恐れる者。
そして、その光景を静かに見守る白銀の狼たち。
その中でも、一際大きな一頭がゆっくりと前へ歩み出る。
一人の人物が、その狼へ歩み寄った。
姿は光に包まれ見えない。
だが、その声だけが静かに響く。
「この世界を、あなたたちに託します。」
白銀の狼は静かに目を閉じた。
その瞬間、映像は途切れた。
神殿へ意識が戻る。
誰も言葉を発せない。
リシアが小さく呟く。
「今のは……。」
白狐は静かに答えた。
「封印へ刻まれた、世界の記憶です。」
「ですが、今お見せできる真実はここまで。」
「継承者となったあなた方なら、旅を続ける中で、いずれ自ら答えへ辿り着くでしょう。」
ベスは左腕へ視線を落とす。
銀色の紋様が、微かに輝いていた。
その夜。
灰鷹は神殿の外で野営を張った。
雪山を渡る風は冷たい。
それでも焚き火の周りには穏やかな空気が流れていた。
ベスが眠りにつくと、左腕が静かに熱を帯びる。
意識はゆっくりと白い世界へ溶けていった。
そこは一面の雪原だった。
満天の星空。
丘の上には、一頭の巨大な白銀の狼が座っている。
黄金の瞳が、静かにベスを見つめた。
「……フェンリル。」
狼はゆっくりと立ち上がる。
「継承者。」
低く響く声だった。
ベスは自然と笑みを浮かべる。
「やっと会えたな。」
フェンリルは静かに頷く。
「半ば、目覚めた。」
「未来のお前との共鳴が、我を呼び覚ました。」
ベスは静かに左腕へ触れる。
「あいつが……。」
フェンリルはベスの言葉を遮るように続けた。
「まだ我が力は半分。」
「されど、これより先は共に歩もう。」
ベスは力強く頷く。
「ああ。」
「よろしくな、フェンリル。」
その言葉に、白銀の狼は初めて穏やかに目を細めた。
「進め。」
その一言を残し、フェンリルの姿は雪と風の中へ溶けていった。
翌朝。
朝日に照らされた雪山。
リシアが笑顔でベスへ声を掛ける。
「おはようございます。」
「よく眠れましたか?」
ベスは穏やかに笑う。
「ああ。」
「すごくいい夢を見た。」
「どんな夢でしたか?」
ベスは空を見上げ、小さく微笑んだ。
「……ずっと待っていてくれた奴に、ようやく会えた。」
意味は分からない。
それでも、その表情があまりにも穏やかだったので、リシアは優しく微笑み返した。
雪山を後にした灰鷹は、新たな真実を胸に刻み、次なる目的地――第三の大陸へ向かう。
紅葉に彩られたその大地で、新たな出会いと、新たな試練が彼らを待っていた。




