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バル  作者: 隣の猫
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マルフィク



白い光に包まれた世界。


静かな声が、優しく問いかける。


「あの日、お前は笑顔を失った。」


「それでも、お前は歩み続けた。」


「なぜだ。」


リシアは静かに目を閉じた。


心の奥にしまっていた記憶が、ゆっくりと浮かび上がる。




修道院。


幼いリシアは朝から晩まで治癒術を学び続けていた。


薬草を刻み。


包帯を巻き。


眠る時間を惜しんで本を読む。


助けられなかった両親のような人を、もう二度と見たくなかったから。


患者の前では、いつも穏やかに微笑んでいた。


「大丈夫ですよ。」


その一言で安心してくれる人がいた。


だから笑った。


自分のためではなく、誰かのために。


夜になると、一人で涙を流しながら。




景色が変わる。


灰鷹へ入った日のこと。


厳しい表情で迎えたガルド。


豪快に笑うレオン。


知的で面倒見の良いアイラ。


最初は戸惑うことばかりだった。


それでも。


毎日の食卓には笑い声があった。


任務が終われば、「お疲れ」と声を掛け合う仲間がいた。


失敗して落ち込めば、何も言わず隣に座ってくれる人がいた。


リシアは気付かないうちに、その時間を心地よく感じていた。




さらに景色は流れる。


灰鷹へ、新しい少年がやって来る。


傷だらけで。


誰も信じようとせず。


復讐だけを胸に抱いた少年。


ベスだった。


リシアは、そんな彼を放っておけなかった。


手当てをし。


言葉を交わし。


時には叱り。


時には励ました。


その少年もまた、少しずつ変わっていった。


そして気付けば。


リシア自身も、少しずつ変わっていた。




雪山。


白銀の毛並みを揺らす、美しい白狐。


その姿を見た瞬間。


「……かわいい。」


思わず口からこぼれた。


飾ることのない、素直な言葉。


仲間たちが笑う。


レオンが笑い。


アイラが微笑み。


ベスも小さく笑っていた。


その光景を思い出した瞬間。


リシアは胸へ手を当てる。


「そうか……。」


「あの時。」


「私は、自然に笑ってたんだ。」




静かな声が響く。


「誰がお前を救った。」


リシアはゆっくりと首を横へ振る。


「一人じゃありません。」


「ガルドさんが、見守ってくれました。」


「レオンさんが、たくさん笑わせてくれました。」


「アイラさんが、いつも支えてくれました。」


少しだけ微笑む。


「そして。」


「ベスくんが、一緒に前を向いて歩いてくれました。」


「みんながいたから。」


「私は、一人じゃなかった。」




神殿は静まり返る。


やがて、温かな声が響く。


「悲しみは消えない。」


「だが、人は一人では生きられない。」


「支えられ、支えながら、未来へ進む。」


「それがお前の辿り着いた答えだ。」


柔らかな光が神殿を包み込む。


冷たく閉ざされていた心が、ゆっくりとほどけていく。


リシアは自然と笑っていた。


誰かを安心させるためではない。


悲しみを隠すためでもない。


父と母に囲まれて笑っていた、あの日と同じように。


心の底から。




目を開ける。


白狐が穏やかに待っていた。


「おかえりなさい。」


「はい。」


リシアは優しく頷く。


その表情を見た白狐は、小さく微笑んだ。


「その笑顔こそ、あなたが見つけた答えなのですね。」




神殿の外へ出る。


待っていたガルドたちが、一斉にリシアへ視線を向ける。


ガルドは静かに歩み寄ると、その顔を見つめた。


そして、どこか安堵したように微笑む。


「……ようやく笑えたか。」


リシアは目を丸くした。


「え……?」


ガルドは穏やかな声で続ける。


「昔のお前は、よく笑う子だった。」


「だが、灰鷹へ来た頃のお前は、人を安心させるために微笑むことはあっても、自分のために笑うことはなかった。」


「今日のお前は違う。」


「心から笑っている。」


リシアは自分の頬へそっと触れる。


気づけば、涙がこぼれていた。


「……ありがとうございます。」


ガルドは照れくさそうに鼻を鳴らす。


「礼はいらん。」


「それが、本来のお前なんだからな。」


レオンは豪快に笑った。


「その笑顔の方が、リシアらしいぜ!」


アイラも優しく頷く。


「ええ。私、その笑顔のあなたが好きよ。」


仲間たちの言葉に包まれながら、リシアはもう一度笑った。


今度は誰かのためではない。


大切な仲間と、未来を信じる――






















本当の笑顔だった。

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