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バル  作者: 隣の猫
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ポーティス



静かな光が神殿を包む。


ベスとリシアは、それぞれ別々の扉の前へ立っていた。


白狐は穏やかな眼差しを向ける。


「試練は、あなた自身の心を映し出します。」


「恐れず、歩みなさい。」


リシアは小さく頷き、光の中へ足を踏み入れた。




目を開く。


そこは雪に囲まれた、小さな村だった。


白い煙が煙突から立ちのぼり、子どもたちの笑い声が聞こえる。


「ここは……。」


胸が熱くなる。


見覚えがある。


忘れたことなど、一度もない。


「私の……故郷。」


その時。


「リシアー!」


元気な声が響いた。


振り向くと、小さな女の子が雪の上を駆け回っている。


金色の髪を揺らし、満面の笑顔で走る少女。


幼い頃の自分だった。


「お父さん! お母さん!」


少女は二人の腕へ飛び込む。


父は優しく抱き上げ、母は嬉しそうに頭を撫でる。


「そんなに走ったら転んじゃうわ。」


「今日は転ばなかったよ!」


「えらい、えらい。」


三人の笑い声が雪空へ響く。


今のリシアは、その光景を見つめながら涙を浮かべていた。


「ああ……。」


「私、こんなに笑ってたんだ……。」




景色はゆっくりと流れていく。


父と薬草を摘みに山へ入る日。


母と一緒に温かなスープを作る夜。


村のお年寄りの荷物を運んで笑われた日。


迷子の子狐を家族みんなで森へ返した日。


どれも特別ではない。


けれど、何よりも大切な思い出だった。


父はいつも言っていた。


「困っている人を見たら、手を差し伸べなさい。」


母は微笑みながら続ける。


「その優しさは、いつか必ず誰かを救うから。」


幼いリシアは元気よく頷く。


「うん!」


その笑顔は、太陽のように眩しかった。




しかし。


空の色が変わる。


雪雲が村を覆い始めた。


笑い声が消える。


家々の窓が閉じられ、人々の表情から活気が失われていく。


リシアの胸が締めつけられる。


「……だめ。」


「この先は……。」


景色は止まらない。


父が苦しそうに咳をする。


母も熱にうなされている。


幼いリシアは必死に二人の手を握る。


「お父さん……。」


「お母さん……。」


「お願い。」


「元気になって……。」


返事はない。


少女は泣きながら家を飛び出す。


「誰か!」


「助けて!」


「お願い!」


必死に叫ぶ。


けれど村には、同じように苦しむ人ばかりだった。


助けてくれる人はいない。


幼いリシアは家へ戻り、両親の手を握り続ける。


小さな手では、何もできなかった。


やがて部屋は静まり返る。


少女は震えながら二人へしがみついた。


「いや……。」


「いやだよ……。」


「一人にしないで……。」


今のリシアは涙を流しながら、その光景を見つめていた。


何度も手を伸ばす。


けれど届かない。


触れることもできない。


あの日と同じように。


ただ見ていることしかできなかった。




静寂。


世界から音が消える。


幼いリシアは両親の前で泣き崩れたまま動かない。


その笑顔は、もうどこにもなかった。


そして暗闇の中から、静かな声が響く。


「あの日、お前の笑顔は失われた。」


「それでも、お前は歩み続けた。」


「なぜだ。」


その問いだけを残し、世界は白い光に包まれる。


リシアは涙をぬぐい、静かに前を向いた。






















その答えを見つけるために――。

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