アルリシャ
白狐の後を追い、灰鷹は雪山をさらに登っていた。
冷たい風は吹いている。
それなのに、不思議と寒さは昨日ほど厳しく感じなかった。
まるで山そのものが、白狐へ道を譲っているようだった。
誰も言葉を発さない。
ただ静かに、その背中を追い続ける。
やがて白狐は歩みを止めた。
その先には、巨大な石門がそびえ立っていた。
長い年月を雪に閉ざされながらも、一切崩れることなく立ち続けている。
門には星を思わせる紋様が刻まれていた。
ベスは思わず息を呑む。
「これが……。」
白狐は静かに頷く。
「星詠みの神殿。」
その名を聞いた瞬間だった。
「……神殿。」
リシアが小さく呟く。
皆が振り返る。
リシア自身も驚いたように目を瞬かせた。
「どうして……。」
「初めて見るはずなのに。」
「懐かしい気がする……。」
白狐は静かにリシアを見つめる。
黄金色の瞳が、ほんの少しだけ優しく細められた。
ガルドが一歩前へ出る。
「何か知っているのか。」
白狐はゆっくりと口を開く。
「今は、まだ。」
「答えは神殿が示します。」
その言葉に、ベスとリシアは顔を見合わせた。
白狐は石門へ近づく。
一本の尾が静かに揺れる。
その瞬間。
ゴゴゴゴ……
巨大な石門が、ひとりでに動き始めた。
長い眠りから目覚めるような重々しい音が、山々へ響き渡る。
冷たい風が神殿の奥から吹き抜けた。
誰も言葉を失う。
そこには、雪にも風にも侵されることなく残り続けた神殿が静かに佇んでいた。
白狐は振り返る。
その穏やかな眼差しは、ベスとリシアだけを見つめていた。
「継承者、ベス。」
「癒やしの心を持つ者、リシア。」
「あなたたち二人には、この神殿が用意した試練があります。」
レオンが目を丸くする。
「二人だけ……?」
アイラも驚きを隠せない。
「どういうことなの……。」
白狐は静かに答える。
「この神殿が試すのは、剣だけではありません。」
「守る心もまた、未来には必要だからです。」
ベスは静かに拳を握る。
リシアも小さく深呼吸をした。
何が待っているのか分からない。
それでも、逃げるという選択は二人にはなかった。
白狐は穏やかに微笑む。
「安心しなさい。」
「この試練は、あなたたちを傷つけるためのものではありません。」
「あなたたち自身の心を知るためのものです。」
そう告げると、白狐は静かに神殿の中へ歩き出した。
ベスとリシアも、その後を追う。
そしてガルドたちは、その背中を静かに見送った。
これから始まる試練には。
二人だけが進むことを許されていた。




